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欲しいものはある。やりたいこともある。
だが、影は……この体の本来の持ち主は、誰かのために行動を起こせる人物だ。
望みを口にすれば、きっと笑って『いいよ』と云ってくれるだろう。
だが、この体は影の物であり、影の未来をもう１３年分も奪ってしまっている。
自分は記憶を失った体に生まれた人格であり、そのうちなわれた記憶自体、別物として存在している。
ならば、返さなくてはならない。
本来の持ち主に、この体を。
「今何を考えてるか当ててあげよっか」
影が唐突に云う。
「私が何でも『いいよ』って答えるだろから、欲しいものもやりたいことも云えずにいる。でもね、過ぎた遠慮はうざいだけって知ってる？」
影は、空になったカップの底を見つめて続ける。
「私はずっと昔から、今日この話を切り出すずっと前から、あんたがやりたいことをやればいいって云ってるの。なのにあんたは、私の意思を無視して、私のために、私のためにばっかり。ほんっとうに腹が立ってんの。こうして面と向かって話せる今だからこそ、それをはっきり伝えてるのに、『でも』『だって』ばっかり。さっきも云ったけど、それはふくろうのエゴだよ。ふくろうが、自分の欲を押し殺すことを、私は望んでない。ふくろうの体が私の体であっても、今のその体の持ち主は、ふくろう、あんたなんだよ。私はあんたの異能力で、あんたは私の体の意識。別人であっても同一人物でもあるんだよ。同じ人間に、遠慮なんかする必要ないの。言ってる意味わかる？」
「君が怒ってることは十分にわかったよ」
「そうなんだけど、違う……」
息を吐きながら、影が項垂れる。
「ほんっと、国語の勉強しっかりしてくればよかった。日本語不便……」
空のカップに、ふくろうが珈琲を注ぐ。
「というより、君は怒るのが苦手だからなぁ」
「否定はしない」
ため息をつきながら、影は机に突っ伏した。
「性格真反対なくせして、変なところで共通点が多いんだから……」
「首をかしげる癖、怒るのが苦手なところ、それで、頑固なところ……か」
「うん」
影が動き、窓の外を見る。
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作者名：あき | 作者ホームページ：http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時：2021年4月24日 1時
