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ふくろうは少しだけ強張っていた肩の力を抜き、小さく微笑んだ。
「驚かすなよ。君が、ずっと昔にあんな警告をよこすうえに何も言わないから、死を覚悟したじゃないか。君に顔向けできないとさえ思ったんだからな」
「ごめんごめん」
軽く謝りながら、影は椅子を引き寄せて座った。
「でも、わかってたでしょ?私があなたに害を加えないってこと」
「ふふふ。見抜かれてしまったか。いや、何ね。君の警告を無視したつもりはなかったんだよ。でも、霧が出てからずいぶん経つというのに、一向に私は死なない。それどころか店まで来て、私の前に現れてしまっている。私の異能力なら、姿を見ないうちに殺す方が手っ取り早いはずなのに。だからね、君と、話せることにかけてみたんだ」
「まったく、『好奇心は猫を殺す』って、よく云ったもんだよね」
「さながら私は、『シュレディンガーの猫』と言ったところかい?」
「それは、私のことじゃないかな?」
「君が異能力だと言うならそうなるかもしれないね」
「それにしても、ずいぶん遅い到着だったね」
「久々に手に入れた自由だから、のーんびり、ゆーっくり、舞台巡りしてた。そんなに待った?」
「……いいや」
軽口をたたき合いながら、ふくろうは影のために、甘いカフェオレをカップに注ぎ、影に差し出した。
「あ、珈琲ありがと。あのさ、雨の日と霧の日は珈琲飲むことにしてるのって、私とあの人のため?」
「確証はなかったがね。霧の日は、君が来るかもと思っていたし、雨の日は、君が彼のことを強く思うからね。どうも飲みたくなるんだ」
「そっか……ありがとね……。にしても、デップル事件が今日だったとはね〜。いや〜、今までほんとドキドキしてたわ。ふくろう、全然戦えないから、死ぬんじゃないかって。私が異能力で本当によかったよ」
「君でもわからなかったのかい?」
「物語では、日付とか季節は曖昧になってんの。なんとなーく、この先どういった順番で、どんな事が起こるか覚えてるだけ。まあ、時系列的にそろそろかな〜って感じはするよ。あんたが、事件に散々巻き込まれてくれてるおかげで」
「云い方に少し『とげ』を感じるが、まあ、君の云いたいことはわからんでもないよ。でも、ひとつ云わせてもらいたい」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時