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窓の外で、霧が立ち込めているのをぼんやりと眺めていた。
手元に下巻と書かれた本が置いてあるが、読まれた形跡も、読もうという気力すらもない。
深夜ともなると店の電気では心許ないが、明るい住居区域に行くこともしない。
薄暗い店内に、時計の音だけが鳴り響き、異様な雰囲気を醸し出していた。
まさかこんな時間に客が来るはずもない。
だが、なんとなく予感があった。
冷えた空気に、肩にかけたストールを掻き寄せ、珈琲に口をつける。
砂糖とミルクのたっぷり入ったカフェオレ。
珈琲は飲めないわけじゃないが、好みではない。
だが、彼の人が好んで飲んでいたので、彼女が好むものなので、いつもストックしていた。
今、それを消費するのは、ふくろうただ一人であるが。
何もせずに待つのに飽き、もう寝てしまおうかと、するつもりもないことを考え始めたその時だった。
カラン、カラン。と、鳴るはずのないドアベルが鳴る。
ふくろうがドアを見る。
そこに立っていたのは、黒い人影。
ふくろうと同じ格好をしているその人物の胸元には、心臓のように、赤く光る宝石があった。
「……やあ、随分と遅かったじゃないか」
影を見て、ふくろうは首をかしげてほほ笑んだ。
震える手を握り締めて、立ち上がる。
ずっと昔に、記憶が伝えてきた。
その日も確か霧が出ていて、『珍しい』と窓の外をぼんやりと見つめるふくろうに、記憶はこう伝えてきた。
『霧の日には気を付けて。異能力が分離して、あんたを殺しに来るだろうから』と。
ふくろうは、椅子から立った姿勢のまま、まっすぐ影を見据える。
ドアの前に立ったまま、表情のない顔でふくろうを見つめている影。
緊張感が部屋の空気を張り詰めさせる。
戦闘には自信はない。体力も同様に。
武器らしい武器は無いし、異能力が分離した今、この部屋のシェルター的役割と、不死の影響があるかもわからない。
影がただ一言発するだけで、自分はこの世界から消えることだろう。
生きることに執着しているわけではないが、死んでしまっては顔向けできない人物がいる。
コツ。と、静かな部屋に靴音が鳴り響く。
影が一歩、また一歩と、近づいてくる。
ふくろうはただ無言で、歩み寄る影を見つめていた。
そして、ついにカウンター越しにまで迫ったその時。
「こういう時は、無効化にできないの面倒だよね」
影は、あはっ。と笑わんばかりの声音で云った。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時