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「私は、彼女のおかげで、恋心というのを知った。誰かを愛するという感情を教えてもらったんだ。いつか死ぬとわかっていても、彼女は彼を愛していた。だから、なるべくその心に寄り添っていたかった。でも、それは私のためにも、彼女のためにもならない。だから君に指摘してほしいと思っていた。君は、真実を見抜き、事実だけを口にする。気休めの言葉なんてくれやしないから。だから、ね。君が云ってくれれば、彼女も目を背けていた事実に向き合えると思ったんだよ。でも、彼女はそれを拒否したかった」
「……そう」
「でも、そんな必要もなかった。彼女の強がりはただの虚勢だった。彼女もまた、わかったうえで信じていたに過ぎなかった。私が、余計な気を回しすぎただけだった。……なあ、名探偵、私は」
「……僕に聞かなくても、君はいずれ方法を見つけて勝手に帰るよ」
ふくろうの言葉を遮って、乱歩が云う。
拗ねたような口調だった。
ふくろうは、肘をつきながら、温かな目でちびちびとクッキーを齧る乱歩を見つめていた。
「嫉妬の当てつけは、もういいのかい?」
「……」
乱歩の視線がわずかに泳ぐ。
それを見て、ふくろうが『ふふっ』とわずかに笑みを漏らした。
「彼女に教わった感情を私は認めたが、君は、どうするんだい?認めるのかい?認めないのかい?」
再び、長い沈黙が落ちた。
ふくろうも皿に手を伸ばし、マカロンをつまむ。
一口食べて、手の止まった乱歩を見つめる。
「……認める」
そう云って、乱歩は顔を上げた。
翡翠の瞳はふくろうの姿を映していた。
「僕は君が好きだよ」
乱歩の告白に、ふくろうは静かに、ゆっくりと答えた。
「それは、随分と魅力的な『心残り』だね」
『Yes』でも『はい』でも『私も好きだ』でもなく。
ただ、その告白を受け入れるかのように。
「……認めたんじゃなかったの」
「君曰く、私は、いずれ元の世界に帰れるようだからね。『心残り』はあまり残したくないんだ」
乱歩の不機嫌を含んだ言葉に、首をかしげながらふくろうは笑って云った。
「君を寂しがらせても悪いし、未練も残したくない。私がいなくとも、君には幸せになってほしいし、笑っていて欲しい」
「自分勝手」
「だけど、それが本音だよ」
そう云って、紅茶を飲むふくろうを、乱歩は恨めし気に見つめた。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時