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そんな会話をしたのは、もう何年も昔のこと。
いつまでたっても入荷されない本を求めて、今日も今日とて、少年はナナシの古書堂を訪ねる。
カランカラン、と、初めて聞く音に、成長した少年は、開けたままの扉を見上げる。
「いらっしゃい」
いつまでも店の中に入ってこないのを不思議に思ってか、少女が少年に歩み寄る。
出会った頃は、さほど変わらなかった身長も、少年の方がはるかに高くなり、少年の顔を見るために、少女も少年を見上げた。
「どうかしたかい?」
「いや、ドアベルを付けたんだなと思って」
「きれいだろう。雑貨屋にあるのを見つけて、一目惚れしてね。本を読んでいると君に気づけないから、丁度いいと思って取り付けてみた。気に入ったかい?」
「ああ」
ドアを閉めると、少年はようやく少女を見た。
「いらっしゃい」
「ああ」
少女が再び云えば、少年は不愛想にも返事をする。
「残念ながら、今日もまだ入荷できていない」
「そうか」
「すまない。でも、必ずと言ったからには、きっと入荷してみせるよ。なんせ、私のお客人第一号であり、唯一の常連だからね。今日も、本を読んでいくかい?」
「ああ。そうする」
「わかった」
少女はカウンターの奥へ戻り、椅子を一つ引っ張り出して、自分の正面に置き、ティーカップに紅茶を注ぐ。
少年が本を手にやってくると、少女も読みかけの本を取り、二人そろって、それぞれで本を読み始めた。
カチ、コチ、と初めて少年が来た時から変わらず時を刻み続ける時計の音だけが店内に鳴っていた。
少年と少女は、無言で、二人並んで、カウンターの中で、それぞれの世界を旅していた。
少女が解き起き紅茶を飲み、注ぎ、淹れる以外に。
少年が、文字を追い、紅茶を飲み、ページをめくる以外に。
2人が動くことは無く、真新しいドアベルがその仕事をすることもなく、ただ、静かな時間だけが流れていく。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時