検索窓
今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:22,718 hit

ページ36

自然と、敦の視線もそちらを向く。

今日の本の表紙には『上巻』と書かれていた。


「いつも、その本を読んでいますね」


ふと気になって問いかける。

いつも尋ねると、『上巻』『中巻』『下巻』のどれかを読んでいて、それ以外の本を読んでいるところはなかなか見ない。


「ああ、この本も、入荷依頼を受けたものでね。ずっと読みながら、依頼主が取りに来るのを待っているのさ」

「そうなんですか。早く取りに来ると良いですね」

「そうだね」


表紙を撫でる手は、酷く愛おし気だった。


「もう、ずっと取りに来ないからね。そのうち内容が気になって、読むようになったのだよ。そしたら本当に面白くてね。それに、人が求める本がどういうものなのかも少し興味があって、ならばそういうシステムにしてしまおうと思ってね。嫌がる客ももちろんいるから確認を取ってだけど」

「なるほど」

「本から、人の好みが垣間見えることもあるし、その人がどんなものを求めているのか、なんとなく予測できたりもする。本は、実にたくさんのことを教えてくれるんだよ。敦くんも、たくさん読むと良い。君になら、この古書堂にある本を好きに借りていっても構わないよ。古書と云っても、値段が張るものはそれなりにするからね。それに、誰にも取られず、読まれずより、誰かに読んでもらった方が本も喜ぶだろうし」

「じゃあ、お言葉に甘えて、たまに借りさせていただきます」

「ぜひ。ああ、もうこんな時間だ」


時計を見上げると、既に五時を過ぎていた。


「夕飯、食べていくかい?」

「いえ、まだやらなきゃいけないことがあるので」

「そうか。なら、これを」


そう云って、カウンターの下から小さな袋を取り出した。


「べっこう飴だ。疲れたときには甘いものを食べると良いよ。くれぐれも、名探偵に見つからないように」


『しー』と唇に指を当て、ウインクをする店主に、敦はドキリとする。


「あ、ありがとうございます!じゃあ、また!!!」

「ああ、名探偵にもよろしく」


手早く包んだ大量のお菓子を手に持ち、敦は店を出て行った。

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (13 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
39人がお気に入り
設定タグ:文スト , 文豪ストレイドッグス , 江戸川乱歩   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/  
作成日時:2020年11月30日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。