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自然と、敦の視線もそちらを向く。
今日の本の表紙には『上巻』と書かれていた。
「いつも、その本を読んでいますね」
ふと気になって問いかける。
いつも尋ねると、『上巻』『中巻』『下巻』のどれかを読んでいて、それ以外の本を読んでいるところはなかなか見ない。
「ああ、この本も、入荷依頼を受けたものでね。ずっと読みながら、依頼主が取りに来るのを待っているのさ」
「そうなんですか。早く取りに来ると良いですね」
「そうだね」
表紙を撫でる手は、酷く愛おし気だった。
「もう、ずっと取りに来ないからね。そのうち内容が気になって、読むようになったのだよ。そしたら本当に面白くてね。それに、人が求める本がどういうものなのかも少し興味があって、ならばそういうシステムにしてしまおうと思ってね。嫌がる客ももちろんいるから確認を取ってだけど」
「なるほど」
「本から、人の好みが垣間見えることもあるし、その人がどんなものを求めているのか、なんとなく予測できたりもする。本は、実にたくさんのことを教えてくれるんだよ。敦くんも、たくさん読むと良い。君になら、この古書堂にある本を好きに借りていっても構わないよ。古書と云っても、値段が張るものはそれなりにするからね。それに、誰にも取られず、読まれずより、誰かに読んでもらった方が本も喜ぶだろうし」
「じゃあ、お言葉に甘えて、たまに借りさせていただきます」
「ぜひ。ああ、もうこんな時間だ」
時計を見上げると、既に五時を過ぎていた。
「夕飯、食べていくかい?」
「いえ、まだやらなきゃいけないことがあるので」
「そうか。なら、これを」
そう云って、カウンターの下から小さな袋を取り出した。
「べっこう飴だ。疲れたときには甘いものを食べると良いよ。くれぐれも、名探偵に見つからないように」
『しー』と唇に指を当て、ウインクをする店主に、敦はドキリとする。
「あ、ありがとうございます!じゃあ、また!!!」
「ああ、名探偵にもよろしく」
手早く包んだ大量のお菓子を手に持ち、敦は店を出て行った。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時