白紙の文学少女 (ページ34)

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「なんだか、初めて探偵社員から本業に関しての依頼をもらった気がするよ」

携帯を取り出してメールを打ちながらふくろうがつぶやく。

「そうなんですか？」

「ああ」

送信ボタンを押して携帯をしまうと、敦に向き直った。

「何だかんだ、事件の目撃証言だとか、名探偵の気分の乗らない事件に助言だとか、名探偵のお使いだとか、そればっかりでね。まあ、それはそれとして、とても楽しいからいいのだけど、たまに、用事ついでに本を購入していってくれる社員もいるし」

「あれ？本業って、このお店じゃないんですか？」

「この店は、ほとんど本業の付属品(おまけ)みたいなものさ。それに、趣味と居場所みたいなものが加わったね。本業は、欲しい本の依頼受付と入荷。ずっとやってみたかったのだよ、誰かの願いを聞き届けられるような仕事が。居場所として要求したのも古書堂だったから、なら、本にしようって。そんな感じでね」

「すごいですね。誰かのために何て……僕は、自分のことで手一杯です」

敦の言葉に、ふくろうは肩をすくめた。

「君が思っているほど、私は大した人間じゃないよ。私も君と同じだ。私はね、自覚がなくとも、記憶がなくとも、私がこの世界の人間ではないというのは、確信しているんだ。だからね、時折、疎外感のようなものを感じるのだよ。失われた記憶然り、この、制約さえ守れば何でも実現してしまう異能力然り……私は、この世界の人間と比べるとずいぶんと異質だ。だから、ね。この世界の人間にどんなことでも、異能力ではなく、私の存在自体を必要とされれば、何か……」

どこか、遠くを見つめて続ける。

「何か、見つかると思ったんだよ。生きる理由も、この世界に呼び出された理由も、記憶を失ったわけも、元の世界に帰る方法も、記憶を取り戻す方法も、この世界に存在していていい理由も。何か……何か、見つかる思ったんだ」

「……」

敦は、ぼんやりと、ここではないどこかを求めるように空を見つめる横顔を、静かに見つめていた。

冷たいほどに無表情で、けれどその瞳は、悲し気に揺れている。

ふくろうの抱く感情の名前はわからなかったが、その横顔は、一生忘れないと思った。