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「こんにちは」
カランカランと、ドアベルが軽快に鳴り響く。
挨拶をすれば、カウンターの奥で読書をしていたふくろうが顔を上げ、ぱっと笑顔になる。
「やあ、敦くん。久しぶりだね。忙しいのかい?」
「まあ、はい」
カウンター前まで歩いてくると、いつも通り、椅子を引き寄せてふくろうの正面に座った。
スッと、湯気の立つ紅茶が置かれる。
「なら、少しでも休憩していってくれ。今日は気分を変えて、アッサムにしてみたよ。お茶請けもいろいろあるから、たくさん食べてくれ」
そう云って、カウンターの下から袋に包まれた様々なお菓子を並べていく。
クッキー、ビスコッティ、フィナンシェ、大福……。
「本当にいっぱいありますね」
「暇つぶしに気分で作って行くと、消費が間に合わなくてね。ここ最近、名探偵も来ないから溜まる一方なんだよ」
あっけにとられる敦を見て、ふくろうは苦笑いを浮かべる。
「乱歩さんも、最近お忙しいようですからね。ふくろうさんのお菓子が食べたいって、たまに駄々をこねてます」
「ふふふ。それは嬉しい限りだよ。使いっパシリに使うようで悪いが、どうか差し入れで持って行ってくれ」
「ええ、ぜひ」
「頼むよ。組合の事件の後始末やらなにやらがあって疲れているだろうに、すまないね」
話していないのに、原因を云い当てたのはきっと、『記憶の気配』なのだろうと、敦は思いながら答える。
「はい。ふくろうさんは、大丈夫でしたか?」
「私にとっては、この店自体が強固なシェルターになっているからね。この中にいる限り、私は死ぬこともなければ、異能力の影響を受けることもない。敦くんこそ、最前線で戦っていただろう?怪我の調子はどうだい?」
「虎の超再生と、与謝野さんの異能力ですっかり良くなってます」
「そうかい。良かった良かった。そういえば、鏡花ちゃんの入社歓迎会では、元気に楽しくやっていたものね……」
不意に、口を開いたままふくろうの動きが止まる。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時