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考え込んでしまったふくろうを、太宰は静かに見つめていた。
首につけられた咽喉マイクがなければ、これといった特徴もない。
外に出るときはいつも首を隠す服装をしているので、結局、特徴は何もなくなってしまう。
夏であれば、その厚着で気づくだろうが、それ以外の季節であれば、街ですれ違っていても気づくことは無いだろう。
けれど、『初めて会った気がしない』というのは、本当だった。
ずっと昔に、どこかで会ったことがあるような。だからこそ、会わなければならないような。そんな思いがあった。
「そうさなぁ。そういえば、君は坂口さんと知り合いだったか?」
「……そうだね。昔は一緒によく飲んでいたよ」
ほんの少しの間。
ふくろうは、それに気づきながらも、気づかないふりで話を続ける。
太宰と坂口の確執よりも、自身と太宰の過去の関係の方が気になっていた。
「どこでだい?」
「ルパンというバーでだよ」
「ああ!!わかった!!」
珍しく大きな声を出した。
「思い出したよ、太宰くん。やっぱり、君と私は、何だかんだ初対面ではない」
まるで、難解なパズルを完成させた子供のように、パッと晴れやかな顔で太宰を見つめて云う。
「私は、一度そのバーに行っている。常連の誘いでね。その時に君に会っているはずだ。そこで、中途半端なミイラ男に口説かれ倒して私はその男に云った。『君のように軽薄な男とは、なるべく関わり合いにはなりたくないなぁ』と」
かちり、と、耳の奥で音が聞こえた。
「ああ、私も思い出したよ。あの時の君は咽喉マイクをつけていなかったから、気づかなかった。そうだ、そうだ。そういえば、古書堂で店主をしていると云っていた」
「云った。関係を聞かれたから、そう答えたのを覚えているよ。けど君は、本はつまらないと云ってそれ以上店の話は聞いてこなかった」
「ああ。その代わりに、一生懸命口説いたよねぇ」
「ああ、口説かれた。酒の席だったから、もう、しつこいほどだった。また会おうとか、どこかでお茶でもとか、今度は食事でもとか。興味ないと云ったくせに、『おすすめの本はあるか?』とか、それを買いに店を訪ねてもいいか?とか。あれやこれや提案してきてね。私と君の間に挟まれた常連の、あんなに困った顔は初めて見たよ」
懐かしの日々を思い出し、店主は花のような笑顔で頷く。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時