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「何だかんだ、太宰くんとしっかり話すのは、これが初めてだからね」
「そういえば、そうだったね。どうも、初めて会った気がしないけど」
「私もだよ。そっちの椅子を持ってきて座ってくれ。私の椅子ほどでもないが、それも座り心地の良いものだから」
客人用のティーカップを、カウンターの下から取り出して紅茶を注ぐ。
温かく、飲みやすい温度に保たれた紅茶だ。
それから、向かいに椅子を持ってきて座った太宰の前に差し出す。
「美人が淹れてくれた紅茶って、いいものだね」
うふふ、と笑いながら、太宰は紅茶に口をつけた。
「茶葉は、市販のやつだけどね。銘柄はアールグレイ。そうだ、太宰くん、君は好きな紅茶はあるのかい?」
「これといってこだわりは無いかな。どうしてだい?」
「いやね、いつも、アールグレイを出していては、みんな飽きるかと思ってね。ダージリンとか、イングリッシュブレックファーストとか、メジャーでシンプルなやつも、買っておいた方がいいかと思ってね。アールグレイは強い香りが特徴だから、苦手な人もいるだろうし」
「紅茶にはあまり詳しくないけど、君の気分転換用にでも、いくつか買っておいてもいいんじゃないかい?どうせ、君のお金じゃないんでしょ」
「まあね」
肘をついて、ふくろうを見つめる太宰に笑い返す。
「今度、頼んでおこう。ああ、そうだ。ついでに、坂口さんに胃薬でもあげようかな。買ってくるのも彼だろうけど」
「おや、安吾を知っているのかい?」
「めったに顔を合わせないがね。特務課の中では、私は坂口さん預かりになっているようで、連絡を取るのも坂口さんの番号になってるし、時間が合えばだけど、頼んだものを届けてくるのも彼だ」
「へぇ。ところで、聞きたいんだけど」
「うん?なんだい?」
太宰は、指先でカップをいじる。
先ほどから温度は変わらない。
「私、君に避けられているような気がしてるんだけど、心当たりはあるかい?」
「うーん……ないねぇ」
そう云いながら、お茶請けのフロランタンをつまむ。
一口サイズに切られたそれは、サクサクぱりぱりと、小気味いい音を立てた。
「二度会いたくないと云った人は、片手で足りるくらいだし、その中に君はいない。でも、君が避けられてるというくらいなのだから、きっと私が思っている以上に、私と会えていなかったってことだろうしねぇ……うーん……」
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2020年11月30日 15時