彼女の悩み 5 ページ8
「何を思ってるのか、教えてくれないかな?」
彼女が俺をギュッと抱き返した。
「可愛くないです。
私は、地味な人間です。」
彼女はボソッと呟いた。
「地味?」
そういえば前にも彼女がそんなことを言っていたような気がした。
彼女が少し寂しい顔をするようになったのはその頃からだったかも知れない。
「誰かに言われたの?」
彼女は何も答えなかった。
「俺にはAちゃんが誰よりも輝いて見えるんだけどなあ。」
「目悪いですか?」
「自虐がすごいなあ。
ちゃんとコンタクトしてるよ。」
コツンと俺の胸に彼女が頭をあずけた。
「いえ、自虐などではなく、世間一般に見て、私は可愛くありませんし、おしゃれでもありません。
その一方で、與那城先輩は私と正反対のような華やかな方です。」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん。」
「世間一般の話です。」
私が褒めているのではないと釘を刺された。
「與那城先輩の歴代の女性方は、外見が美しい方ばかりで、こんな私が與那城先輩の隣にいるのは、身分不相応だと思います。きっと私が隣にいることで、與那城先輩の価値を著しく下げてしまう可能性が高いです。」
「そんなこと気にしてたの?」
「そんなことって…。」
バッと彼女が顔をあげた。
「私には重要な問題です。」
彼女と目が合った。
「今までこんな事を悩んだ事が有りませんので、どうしたらいいのか、わかりません。」
彼女は困ったようにおでこを俺の胸にあずけた。
俺は思わず彼女をギューと抱きしめた。
華奢な彼女は俺が力いっぱい抱きしめたら本当に骨でも折ってしまいそうだ。
でも、彼女がそんな可愛い理由で悩んでいるのが愛おしくて仕方がない。
きっと俺の派手な(ことを1,2年生のときに[図らずも]やらかしてきた)印象によって彼女を苦しめてるんだなと思うと自責の念に駆られる。
「苦しいです。潰れます。」
「ごめん。可愛いから思わず、ね。」
「可愛くありません。」
俺は彼女を離して、彼女の手をとって歩き出した。
彼女に手を振り払われるかと思ったが、彼女は意外にも、ふんわりと握り返してくれた。
ジジジと虫の音が聞こえる。
街灯が少なくて、雨上がりの湿ったアスファルトを月明かりがぼんやりと照らす。
いつの間にか帰宅途中の学生たちやサラリーマンの姿もなくなっていた。
夏の湿気のせいなのか手汗が尋常じゃないほど出てくる。
多分夏のせいではない。
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作者名:ののん | 作成日時:2020年5月13日 22時