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くすっ。
赤司君が漏らした小さな笑い声で、はっと我に返って頭を上げる。
「呼ばれたら返事をするべきだ」
「………………はい」
動機が収まった所でしっかり返事をする。
叱られてしまった。失態である。其れもそうだ、返事を怠り考え事に没頭していた私が悪い。
御免なさいと素直に謝ると分ったなら良いと何時も通りの返事が返って来る。其の言い方は聞き慣れたものだったから、もしかして入れ替わってたのがもう戻ったのかなんて余計に現状に混乱してしまう。
「其れで、僕が体調が悪いと」
不意に話題が戻る。
彼の言葉に頷き、戸惑いを悟られないようどぎまぎしながら続きを待った。
すると彼は酷く興味深そうに、目を僅かに見開く。
「如何して、そう思う」
面白がっているようだった。
私に対する問い掛けは、異質で、奇妙なものでしか無かった。
彼は全てを知っているから、何もかも見えているから、態々質問等する必要が無いから。
曲がりなりにも彼は人間なので、知らない事は勿論あるだろう。だが、赤司君が理解出来ない事、其れは即ち其の考えや言動が正しく無い事を表す。
赤司君と出会ってから半年以上が経つが、彼が体調を少しでも崩した姿を見た事が無い。
無欠席無遅刻皆勤賞であり、何時だって凛としている事で有名なまさに優等生。
そんな彼の表情が少しでも暗かったから。
カウンセリングで最も求められているのは、ほんの少しの変化にも気がつく観察眼。至って単純だけど、なかなかに難しい。
彼が本調子でない事は、見てれば分かる_______と言いたい所だけど正直根拠は無い。はっきり言って唯の勘である。
やっとの事で返せた答えは酷く稚拙だった。
「そう見えただけだよ」
へぇ、正直だなと笑う彼に心を見透かされ顔が赤くなる。再び早まり出した動機は、彼の微々たる顔色に表れた楽の感情の所為だ。
そんな顔を見せてくれるのが嬉しくて、周りに誰も居ないのも相まって非日常が思考のストッパーを外す。
改めて思い出すと、私は赤司君の事が好きなのだ。勿論今すぐ如何の斯うのは言わないし、こうして側で話が出来るだけで満足しているが。
彼に名前を呼ばれただけでどきどきするし、他の誰も知らないであろう彼の一面が見れて優越感にだって浸っている。
「初めまして、赤司さん」
だから、私は調子に乗ってしまった。
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nome(プロフ) - あまねさん» 返信大幅に遅れて申し訳ありません。楽しみにして頂けてとても嬉しいです!更新はのんびりとお待ち下さいm(__)m (2018年3月18日 11時) (レス) id: 981a85eb0c (このIDを非表示/違反報告)
あまね - この作品大好きです(*^^*)更新を楽しみに待っています!! (2017年5月7日 19時) (携帯から) (レス) id: 743e4dcd22 (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - みずあいすさん» そうなんですね!仲間だと知れて心強いです(`・ω・´)私は行きたい大学がありまして、かなり難関なので気合いを入れたくて(笑)お互い頑張りましょう〜!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - こうちゃさん» 繊細……!勿体無いお言葉です、有難う御座います!何時もコメントに励まされておりますm(_ _)mお待ち頂ける事が最大限の励みです……!受験勉強に精一杯挑んで、戻って参ります!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
みずあいす - 私も来年受験生です。辛い……。勉強とか考えてなかったので、正直現実を叩き付けられました、ありがとうございます。幸せなエンドを迎えられることを祈って!頑張ってください! (2017年4月5日 21時) (レス) id: 94c5760bdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nome | 作成日時:2016年8月8日 16時