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一学期に見出した、今となっては如何でも良い事実を改めて認識する。はっきりと、もう一人の方に会った事は無いのだが、もしかして今の彼がそうなのかもしれない。
完全に入れ替わった訳では無いとしても、片鱗位は現れていると思う。
「そう警戒しないで欲しい」
私の複雑な感情を読み取ってか否か、彼はくつくつ声を立てて笑う。
やはり、らしく無い。
「南には幾つか借りがあるからね。今回で一つ返せただろうか」
「も、勿論……!あの、借りって」
「一学期と夏、其々僕の友人が世話になった」
あれは部活動関係無く、個人のお願いだったからね。立派な借りだよ。
そう言われ成る程と頷いた。自分自身では得られた事の方が大きかった為、借りだと認識して居なかった様だ。
其れはそうと、と話が現在に戻される。
「僕は技術的なコツを少し教えただけで、佐々谷さんは元々レベルが高いから直ぐ吸収出来ていたよ」
ようやく舞台から引き上がるオーケストラ部の面々に視線を戻しながら、赤司君は評する。
「誰かさんのお陰でメンタルは最高だったみたいだし」
くすっ、と微笑む彼を直視出来ず思わず顔を逸らした。
今回、赤司君にはみやちゃんの強力な助っ人として馳せて頂いた。期待通り、彼は直ぐ様状況を把握し見事に応えて見せたのであった。
私は、赤司君がヴァイオリンを弾ける事を知って居た。
彼以上に、適切な人は思いつかなかった。
「赤司君の事、信じていたから」
「其れは光栄だね」
思わず漏れた最大級の賞賛に、一呼吸置いて赤司君は頷く。
本当に少しだけ見開かれた目に、期待しても良いのだろうか。
彼の意表を突けていると。
彼の記憶に留まっていると。
彼に、近付けて居ると。
伏せられた瞼と、穏やかな微笑を浮かべた横顔を見つめる。
講堂が暗くて良かった。
_______ほんのり朱色に染まっていく頬を隠せるから。
会話が途切れて良かった。
_______次に話す時は、きっと声が震えてしまうから。
やっと分かった。
_______ずっと前から背けていた事実を、再認識出来て良かった。
舞台に向けられた彼の顔に倣う様に、私も顔を上げた。
胸の痛みは、気の所為でも何でもない。
きゅっと締め付ける其れに手を当て、思わず笑顔が綻ぶ。
_______私は、赤司君の事が好きなんだ。
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nome(プロフ) - あまねさん» 返信大幅に遅れて申し訳ありません。楽しみにして頂けてとても嬉しいです!更新はのんびりとお待ち下さいm(__)m (2018年3月18日 11時) (レス) id: 981a85eb0c (このIDを非表示/違反報告)
あまね - この作品大好きです(*^^*)更新を楽しみに待っています!! (2017年5月7日 19時) (携帯から) (レス) id: 743e4dcd22 (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - みずあいすさん» そうなんですね!仲間だと知れて心強いです(`・ω・´)私は行きたい大学がありまして、かなり難関なので気合いを入れたくて(笑)お互い頑張りましょう〜!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
nome(プロフ) - こうちゃさん» 繊細……!勿体無いお言葉です、有難う御座います!何時もコメントに励まされておりますm(_ _)mお待ち頂ける事が最大限の励みです……!受験勉強に精一杯挑んで、戻って参ります!! (2017年4月6日 20時) (レス) id: 1efffa79be (このIDを非表示/違反報告)
みずあいす - 私も来年受験生です。辛い……。勉強とか考えてなかったので、正直現実を叩き付けられました、ありがとうございます。幸せなエンドを迎えられることを祈って!頑張ってください! (2017年4月5日 21時) (レス) id: 94c5760bdb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:nome | 作成日時:2016年8月8日 16時