違和感 ページ10
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「そうなんだ，大変だね。頑張ってね！」
「あは。ありがと」
自分にとっては当たり前になっている多忙な仕事に
頑張れと言ってくれる彼女が新鮮で
やっぱり少しくすぐったいような気持ちになりつつ。
とはいえ，帰る家に誰かが待ってるのも新鮮だったけど
知らず知らずに気を遣っていた，というのもまた事実で
まぁ…当たり前か。
小さい頃から知ってるいとことはいえ
風呂上がりにパンツ一丁でビールとかできないし
多少窮屈だったのは否めなくて
いつもなら寝心地の悪い当直室の固いベッドで
久しぶりにのびのびと過ごした。
翌，金曜日の昼休み。
珍しく智くんから飲みの誘いのメールが来ていた
Aが来てから全然飲みにすら行ってない
２日連続ひとりにすんのも多少気が引けたけど
彼女だって子供じゃねんだし…
てか，俺がいない方が夜遊びもしやすいだろ，なんて
速攻でOKの返信を返した。
仕事が終わり，車を置いて着替えようと一度マンションに戻った
家に入るとすぐに気づく，いい匂い。
しくった…飯食わないって言っとくべきだった？
まるで嫁に叱られるのを恐れる旦那みたいだ…
なんて医局の既婚男性たちを思い出して苦笑い
「おかえり」
「ただいま……ごめんA，今日飲み行くんだ俺」
「あ，そうなの？」
「飯，作っちゃったよな」
「いいのいいの，これは私が勝手にしただけだし…」
「…ごめん」
まただ。
言葉とは裏腹に少し曇る表情
無理やり作ったような笑顔…
飲んでても智くんに
「どしたの翔くん。今日上の空って感じだぞ」
なんて言われる始末で
いつもより早く解散して家に帰ると
遅くなるから寝ててと言ったのに
リビングで電気もテレビもつけたままで
「……なんだよ，寝てんのかよ」
Aはソファなんかで寝落ちてて
「おい，起きろ。風邪ひくぞ」
「あ，ごめん」
「待たずに寝てろって言ったのに」
「ごめんね。電気，もったいなかったね」
「そういうこと言ってんじゃねーって」
「……じゃあ，部屋行くね。おやすみ」
「うん，おやすみ」
このときのAの
俺が帰ってきて嬉しいっていうより
妙にほっとしたような顔に違和感は感じたものの
俺んちだし，帰ってくんに決まってんだろ，と
むしろ苛立ちすら覚えて
Aの抱える問題に，俺は気付こうともしていなかった。
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