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コンビニ前。
アルケー社のロゴマークが入ったトラックが一台、見えないところに止まっていた。
その中にいた男が一人、誰かに電話を掛ける。
ぼそぼそと話し、数秒でその会話を終えると、男はすぐにトラックを発進させた。
そんな様子に気付くはずもなく。
周りの野次馬や警察官はただ、何が起きたのかとわめき散らすだけだった。
「これが、私の届けたい音楽。これが、私の音楽への情熱! ああ、なんて気持ちいい!!」
全てを思い出した今。
真っ黒い燕尾服に身を包み、禍々しさを感じさせるほどに円状の模様を施したタクトを振っている。
周りは何も見えない。
黒い光が覆ったと思えば、白い光が私を包み込む。
全てのものが皆、暗闇から光明へと歩みを進めるのだ。
そう、ベートーヴェンの9つの交響曲がそうであったように!
『交響曲第1番ハ短調作品68 第1楽章』
ヨハネス・ブラームスが21年の歳月を掛けて完成した、労作。
推敲を重ねては1から書き直す、を繰り返した、まさに私の情熱を注ぎ込んだ交響曲。
皮肉の意味も込められているというが、「ベートーヴェンの第10交響曲」とも言われるほど、ベートーヴェンの交響曲を正統に受け継いだ一曲とも言われている。
久しぶりに自分の歌を聴いた。
そうだ、これが私の、生きる理由なのだ。
「……ダス、エンッド!!」
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