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「…敬語、取れとるで」
故に、ゾムはそう言うだけが精一杯だった。
だがAは指摘されたことに「あ」と言葉を漏らし気まずそうに眼を逸らした。
暫くして鬱先生も慌てて迎えにきて三人で基地に戻る。
基地に戻ると、通された部屋の中を見てAは何とも言えない複雑そうな顔をした。
「さて、Aさん。お話は分かっとんね?」
数人の幹部と総統が揃った中で鬱先生が口を開けば、Aは首を垂れて諦めたように中央の一人掛けの椅子に座った。
最初に詰問したのは、ずっと眉を顰めたままだったトントン。
「A様。今回の騒動について詳しくお話を願えますか」
重々しい空気の中で問われた言葉にAが視線をうろつかせていると、Aの斜め後ろに立っていたゾムがわざとらしく口を開いた。
「このお姫さんは基地内が暇やからって、何回も街に出とったらしいで。行先はほとんど"蝶の園"みたいやけど、そもそもそこの子供が絡まれとったところを助けて仲良くなったから何度も抜け出しとった。服装と抜け出した道具を見るに常習犯やな?自国でも同じことしとったんちゃう?今日なんて木に登って降りられんくなった子猫助けるために木登りまでして最後落っこちとったで」
つらつらとAの代わりに、だけどAが話すつもりがなかっただろうことも全てゾム暴露され思わずAはゾムを睨んだが、トントンは眉間に指を当てて数秒黙り込んでしまった。
「………待て、待て待て待て。情報過多すぎちゃうか。え?Aさんが抜け出したのって今回が初じゃないんか?しかも絡まれてる子供を助けた?木登りして落っこちた?…落っこちた?!怪我は?!」
気付いたトントンが立ち上がって詰め寄る様にAに問えば、Aは慌てて首を横に振って答えた。
「ゾ、ゾム様が助けてくださいましたから!大丈夫です!」
「そ、そうか…よかった」
一安心、と椅子に戻ったトントンだがすぐに話は元に戻る。
その口調は先ほどの畏まったものではなく、日常のAに対するものに戻ってはいたが。
「それで、そもそも何でAさんはこの基地を抜け出したんや」
「えっと…」
「暇やから、やろ?」
「ゾム様…できれば少し黙ってていただけると…。正直、この基地内において私にできることはあまりなさそうでしたので、その、市場視察といいますか」
「ようは遊びたかったんやな」
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作者名:乃鴉 | 作成日時:2020年6月24日 19時