子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ37)

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───四月、新学期。
学校の門の前には満開の桜が咲き乱れている。

教師になってからあっという間に一年が経ったことが信じられない。
去年の入学式はビクビクしてたなぁ、と今でも鮮明に思い出せる。

そして、今年から仕事内容もガラリと変わった。

どうやら教師の数が足りていないみたいで、まだまだ新人の私がクラス担任に駆り出されたり。
経験者だから、と男子バスケットボール部の顧問になったり。

大丈夫かな、私？

不安になる気持ちをなんとか抑え、職員室を出た。

.

教卓の椅子に座ったまま¨三年五組¨と書かれたプレートをぼんやり見つめる。
ここが自分のクラスだなんて、まだよく理解できていない。

まだ休み時間で騒がしい中、前に向きなおり生徒の顔を確認する。
見知った顔もちらほら見えて名前と照らし合わせながら見回していた。

…ん？

一年前と同じような状況になっている気がする。

やたらこちらに注がれる視線と、その先にある整いすぎた顔。

目が合った途端に、吉沢くんはしてやったり顔で口角を上げた。

“やっと気付いた。先生俺の担任なんだね”

“まじかよ…吉沢くんの担任かよ…”

“俺は嬉しいけどね”

“甘い台詞、ご馳走さまです”

“うるせぇ”

目線だけで繰り広げられる会話に終わりが見えず、視線をそらして溜め息を吐いた。

三年の担任ってプレッシャーが凄いんだよな。
受験だってあるし…

でも、頑張らないと。
気持ちを奮い立たせて、ひとつ深呼吸をした。

.

『ふみ～』

「…お、A。なんか久しぶり？」

いつものように保健室のドアを開けた数秒後、俯いて何かしていたふみが顔を上げてそう言った。
彼女は手に持っていた紙をすぐに折り畳んで、開いていた引き出しに入れる。

『あ、ごめん。仕事してた？』

「ううん、大丈夫」

近くにあった椅子に座る。
すると、彼女は椅子ごと、くるりとこっちを向いた。

「どうなの？クラスのメンバーは」

『んー…知ってる子も多いし、全体的に仲が良いと思う』

「お、よかったよかった」

『…あ、吉沢くんも私のクラスだったよ』

「本当に？部活も一緒だもんね」

こりゃ仲良くなるわ…とぼそぼそ聞こえた。

そうだ、部活も同じだった。

本格的に部活動が始まるのは来週になってからとはいえ、今からでも一週間後の疲れ果てた自分が想像できる。

考えただけで目眩がするようで、目を閉じて背もたれに寄り掛かった。