子供のまま、痛いまま【吉沢亮】 (ページ32)

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神木side

「「かんぱーい！」」

ジュースの入ったグラスを掲げて声を揃える。

今は、文化祭お疲れ様の打ち上げ中。
クラス全員で食べ放題のお店に来ている。

舞台は大成功だった。
最後の拍手だってどのクラスよりも一番大きくて、結果はもちろん一位。

…でも。
現在隣に座っている王子様(役)は、不服そうな顔をしてサラダを頬張っている。

「何が不満なんだよ、亮」

「…別に？」

そう言えば何もなかったように真顔で食べ続けるけど、時間がたてばまた怖い顔になっていく。

「もう、何？」

「……」

顔を覗き込むと口がへの字に曲がって、暫くすると小さく息をついた。
話す気になったな、と元の体制に座り直す。

「……今日先生と話してない」

ぼそっとそう呟いたと思ったら、ジョッキに入ったコーラをゴクゴク飲み込んだ。

え、そんなことで？

少し驚いてその横顔を見る。

「あ、今そんなことで？とか思ったろ」

「…んーん？」

ちょっと間があいて否定すれば、分かりやす、と笑われた。

「俺、結構頑張ったんだけどな～」

「だから最優秀取れたんじゃないの？」

「でもなぁ……これ、隆にだから言えるけどさ」

俺、A先生が見てくれるからキャストになったの。

こいつ……

声を潜めてそう言う亮に半ば諦めにも似た感情でじとっと見つめると、どこか楽しそうに眉間にシワを寄せて笑う。
その笑い方を見て全身の力が抜けた気がした。

「ガチ惚れだな」

「うん、もー大好きなんだよ～！」

亮はそう語尾を伸ばし、自分で自分の体を抱き締めるようにして足をバタバタさせる。
ちょっと気持ち悪い。と冷めた声で言えば思いっきりどつかれた。

っていうか、こんなに大人数いる所でそれ言って大丈夫なの？

そう思ってこっそり周りを見ると、案の定遠くからこっちを見ている女子がいた。

……やべっ！

ばちっと目が合ってこっちが視線を逸らす前に、その子は顔を赤くして奥の個室に逃げていった。

「お前、噂立つよ」

「分かってる。でも誰とは聞こえてないよ、あの子にも」

知ってたのかよ、とその策士ぶりにふっと笑う。
すると亮はばっと立ち上がり、

「ん、この話はおしまい！」

「亮が止まらなくなるからね」

「うるさい」

笑い合った後、飲み物を持って二人でがやがやと騒がしいテーブルへ向かった。