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俺の務める会社は十五分も歩けば人気店がごろごろ見つかるような、都市のど真ん中に構えられている。
あれからすぐに会社を出た俺と二宮は、その中のとある小料理屋に来ていた。
「翔さんは熱いよね、ほんと。
俺そこまでの熱量でやってるかっていわれたら、無理だもん」
いい具合にほろ酔い加減になった頃、今の仕事について少々熱く語ってしまった俺に、二宮は言った。
彼の頬もほんのりと赤みがかっている。
「俺とニノじゃあ顧客との関わり方がまるで違うだろ。
どっちがいいかは人によるし、俺にはニノみたいには出来ない」
「まあね、それより止めない？ 酔うとニノって呼ぶの」
「先輩を先輩と思わないヤツの頼みなんか聞かないもんねー」
「思ってますよ、優しい先輩って」
「ニノの場合は優しいの前に『奢ってくれる』がつくだろ」
「んなこたないって。 まあ奢ってもらいますけど」
二宮は悪びれる様子もなく、さらっとそういって料理に手を伸ばす。
現在二十七歳にしては若干の幼さこそ見て取れるが、実に端正な顔立ちだ。
最も、精神年齢で言えば、未だ二十代であることを疑う訳だけど。
三年前、社内にとある噂が流れた。
二十四歳という若さで第一級監査人まで登りつめた逸材がいると。
記憶監査人には、三段階のランクが設けられている。
初めて免許を取得したときには誰もが第三級監査人で、
さらに国家試験を通過してランクの上がるごとに出来る操作が増え、昇給もする。
しかし、第一級監査人は全体のわずか一割で、二十代ともなると０．５％未満といわれる。
「ニノはさ、何で一級を目指したの」
相当な覚悟を持って挑まなければ、決して通過することはできない。
第三級でも十分に豊かな暮らしは保証される故、第一級を目指す者は少ない。
それは一割という数字が物語っていることだ。
「…お金と一人の時間が欲しかっただけ。
安定かつ多額の収入が得られて、仕事中は特別監査室に一人」
安い日本酒を口にして、彼は笑う。
「いつも言ってるじゃない」
「…変わったヤツだよな、お前」
稼ぐだけ稼いだ金は、目の前の安い料理と酒にさえ消費されない。
なんたって俺が払うからね、今日も。
「またそれ言う。 普通でしょ、別に」
ああ…、酔いが回ってきた。
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作者名：凛南＊* | 作成日時：2017年5月30日 21時
