５ S ページ5
会計を済ませて店を出た俺たちは、今日はこのまま帰路につこうということになった。
「ほんとにタクシーでいいの？ 空から帰った方が早いのに」
「いいですよ、空は高いもん」
ニノはそういってタクシー乗り場のベンチに腰掛ける。
定期的に俺を飯に誘っては、帰りはこうしてささやかに遠慮するのが常だ。
「あっそう、ならいいけどさ」
そうなればもちろん俺も陸路で帰るため、彼の隣に腰掛ける。
「あと何年かなあ」
暗闇の中、街灯のおかげでほんのりと確認できたニノの顔は、酔いも手伝ってか眠そうだ。
「ん、何が」
「そりゃあ、翔さんがいつまで気前よく奢ってくれっかなって」
「ははっ、何だよそれ」
「ん…まあ、当分は心配ないか」
「何で？」
俺がニノのほうを見ると、ニノもこちらを見る。
そしてあどけないように笑っていう。
「だって残念なイケメンじゃん、アナタ」
「うるせえ、飯代返せっ」
「やーだね、いやでもこれ、割とマジな話よ」
「はっは、お前ほんと容赦ないなあ」
例えば他の後輩に同じことを言われたら内心穏やかじゃないんだけど、
コイツだとどうも怒る気になれないのは、どうしてだろうか。
そうか、こうやって顧客も手玉に取ってんのかお前は。
そうしてくだらない会話をしているうちに、タクシーが向こうからくるのが見えた。
俺の家はニノと逆方向だ。
二人ともほぼ同時にタクシーに気づいて、ニノだけがゆっくりと立つ。
「とりあえず翔さんはさ、その紳士的な一面を女の人に見せなよ」
「紳士的？ そんな一面ニノに見せたっけ、そもそも」
「だからさあ、…あっ、とりあえず××までお願いします、ええ…」
目の前に止まったタクシーの運転手に行先を告げて、ちらと俺のほうを振り返る。
タクシーに乗り込みながら、まるで捨て台詞のように彼は言った。
「男に匿名でコーヒー奢ってる場合かって言ってんのっ」
それじゃ、ごちそうさまでした。
ドアが閉まる。
ひとり残された俺は、去っていくタクシーを見つめながら呟く。
「…はは、気づいてたのかよ」
薄々感じていたことを言い当てられて、妙な可笑しさが込み上げる。
自分の乗り込むタクシーが来る頃には、ほとんど酔いも醒めてしまっていた。
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作者名：凛南＊* | 作成日時：2017年5月30日 21時
