嫉妬と彼 ページ8
完全遮光のカーテンによって、昼間でもこの部屋は暗い。
夜の仕事をする人間としては大変お世話になっているアイテムである。
だがしかし。
人間の睡眠を妨げるものは、燦々と輝く太陽のみではない。
むしろ光は壁やらアイマスクやらで、容易に遮断することができるものだ。
では音はどうだろう。
人間の耳には、まぶたのような蓋は存在しないし、完全に外部の音をシャットアウトできるような壁や耳栓も、存在していないといっていい。
長ったらしく語ったが、つまるところ、うるさい。
ガンガン……。ゴゴゴゴ……。
運の悪いことに、私の住む部屋の真隣に新しくマンションが建つらしく、その工事が先週から始まったのだ。
ゴンゴン……。ガガガガ……。
何を好き好んで朝っぱらからこんな騒音を聞かなくてはならないのか。
安眠妨害もいいところだ。
ふう。
これじゃあ眠れそうにもないので、私はとりあえず起き上がってキッチンに向かった。
ペットボトルの水を飲んで、睡眠によって失われた水分を取り戻す。
そこまではよかった。
さて、どうしたものだろう。
昨夜はジンが迎えに来てくれなかったせいで、ご飯にも行ってなければ、今日の分のご飯すらも買ってきていない。
自炊などしたこともない私の家の冷蔵庫には、ろくなものがはいっていない。
くそう。恨むぞ、ジン。
一度気がついてしまえば、空腹はますます存在感を顕にしてくる。
ふう。
私はベッドサイドに置きっぱなしにしていたスマホを取って、ジンに電話をかける。
とぅるるん、という短い発信音がして、すぐにジンは出た。
「もう着く」
第一声は、もしもしでも、どうした? でもなく、それだった。
ジンらしいといえばらしいけど。
「待ってる」
私もそれだけを答えて電話を切った。
お互いに四文字ずつしか喋っていない、短い通話。
私の機嫌をなおすには十分だ。
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作者名:すず | 作成日時:2020年3月8日 23時