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眠りが浅いのは昔からだった。

こういうお仕事(・・・・・・・)をしているんだから、警戒心が強いのはいいことなのかもしれない、と思わないこともない。
熟睡できない分は時間でまかなえていたから、さして問題もなかった。

ミシとベッドが音を立てたのを聞いて、またか、と思う。
寝ていたのか寝ていなかったのかすらもわからないが、記憶がないということはおそらく寝ていたんだろう。

意識が戻ってからも私はしばらく寝たふりをして、彼が帰るのを待つ。

布がすれる音、小さな足音、呼吸の音、それから紙の擦れた――煙草を取り出す音。

私は彼に気がつかれないように微笑する。

これを聞くと、私は安心するのだ。彼が近くにいるのがわかるから。

同時に、これを聞くと、私は虚しくなる。彼は帰ってしまうから。

わずかに金属のあたる音がして、それからしばらくして煙草のにおいがした。
煙たくて、しかも体に悪いっていうんだから、この匂いが嫌いな人は多いんだろう。
けれど、私はこのいかにも不健康な、彼らしい香りが好きだった。

私が眠りに堕ちたのを確認したのちに、彼は必ずこの部屋で煙草をふかしてから出ていく。
そうしてこっそり起きた私は、彼の残したその香りを全身にまとって、再び長い眠りにつくのだ。

目を開けたら彼はいないから、だから私は目を開けない。
煙草の匂いと彼がいた気配だけを抱えて、暗く、ひとりぼっちになった部屋で、眠るのだ。

「ジン――」

仮初のその寝言に、返事はない。

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作者名:すず | 作成日時:2020年3月8日 23時

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