季節は巡る ページ29
手元の手紙を折り畳んで仕舞いながら、私はそいつを見上げて。
「――ねえ、総悟。……今度、手紙でも書いてみようか」
発した言葉と共に頭に浮かぶのはいつかの情景である。毎日毎日そいつからの手紙を待ちわびていた、あのときの。
そんな心情を察したのか、総悟は私を一瞥してふっと笑う。そして。
「……そりゃァいい。――ただ、今度は」
お互い宛先は一緒だがな。
付け足された言葉に溢れるのは、やはりこれでもかというほどの幸福であった。いつかの私に伝えてあげたい、手紙にのせていた想いは届いたよ、と。バカみたいに一途な想いは、報われるよ、と。
「そんなの知ってるよ」なんて返した私の顔は、きっと蕩けるような笑みが浮かんでいたことだろう。――その証拠に、総悟が少し上機嫌だ。
いつの間に日が沈んだのか、少し薄暗い部屋の中。そいつはぬっと私の方へ手を伸ばし、
「――にぇ…!?」
……どうしてか、両頬を引っ張った。間抜けな声を出してしまった私を総悟は「まぬけづら」と意地悪く笑う。
なにふんの、なんてやはり間抜けな響きで総悟を見上げれば「さーな」とかなんとか。“離して”と視線で訴えて数秒、ようやく離れていったそいつの両手とヒリヒリする両頬にほっと息を吐いていれば。
「幸せ極めたよーなツラしやがって」
「え、幸せ…って――んッ、」
――息を吐いたのも、束の間。暗闇にとけるように、唇が触れ合う。胸いっぱいに総悟の匂いが広がるこれは、いつまで経ったって慣れることはなくって。
「――しあわせ、だなぁ」
ようやく解放された唇でそんなことを紡ぐと総悟は呆れたように笑った。だけれど、本心なのだから仕方ない。
そのまま暫くしたあと私たちは電気をつけて、手紙を元に戻した。気が付けばもう時刻は夕食の時間だ。
「屯所での夕御飯と朝御飯は、もうちょっとの間しか食べられないんだよね」
「ったく、何寂しがってんだか」
再び呆れ顔を纏った総悟と並んで食堂へ向かう。――お江戸に出てきてから既に季節を何周もしている今日この頃、庭のちいさな桜の木が、私にまた新しい春の訪れをしらせているのであった。
恋そめ往復書簡集 [完]
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時