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「――まァそりゃ、そうだろーけどよ」
頭に蘇るのは先ほどのそいつの笑みである。…手紙じゃ貧相だガキだとバカにしちゃいたが――そいつも立派な女だと、もう認めないわけにはいかなかった。
反論が返ってこなかったことに驚いたらしいAは、こちらを見上げてぱちりと瞬きをする。
「総悟って自分の考えを曲げられたんだね」
「喧嘩売ってんのかてめー」
「……こんな勝ち目のない状況で、そんなことしないって」
「ちったァ賢くなったじゃねーか」
ほんのからかい程度にそいつを引き寄せる力を強めてみれば、黒髪から覗く耳の赤が強まった。こりゃ確かにこいつに勝ち目はねェ。
着物越しに伝わるその熱さにきっと満足気であるだろう笑みを浮かべつつ、しかし不意に脳裏に蘇ったのはほんの十数分前のとあることだった。…つまり。
「……そういやてめー、いくらか不用心が過ぎんじゃねーか」
「…不用心?」
「一応サルでも年頃の女だろィ。鍵もかけず一人たァ襲われてーのか」
そう、先程確か俺は鍵も何もされていない玄関をくぐってきたのである。滲む不機嫌を隠さず言うとAは気まずげに目をそらし。
「ごめんなさい次から気をつけます睨まないで」
「分かりゃいい」
「…また睨みが怖くなった」
次からは気をつけるから、と苦笑するA。確かに現職警察である以上睨みもそれなりな威力を持っているだろーが、慣れてもらわねェと困る。――それに。
「――“次”があるかもわからねーぜ」
「…うん?」
「てめーもう撤回はさせねェぞ。全力で連れ帰る」
「………あ、」
そっ、か、などとぎこちなく紡がれた納得の言葉。そいつはゆっくりこちらを見上げ。
「手を取るって、そういうこと?」
「今更やっぱなしでとか言ったら殴る」
「言わないよ。――でも、…それなら、」
――それなら私は、もうひとりじゃないの?
向けられる視線はどこまでも不安げで、どこまでも寂しそうだった。当たり前ェだと伝えてやれば、目の前でほろり、水滴がこぼれ落ちる。それは段々その頻度を高めてゆき。
良かった、本当は寂しかった、ありがとう、ありがとう。紡がれる言葉は嗚咽混じりのAの本音だ。…それらを涙ごと受け止める役目が出来て良かったと、思う。――迎えに来て、良かったと。
心の奥に残っていた一抹の後悔が消えていくのを感じながら、「近藤さんに不細工面見せることになんぜ」と俺は小さく笑ったのだった。
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文 - 何年経っても色褪せなくてついまた読み返してしまいます。ふっと笑えるところもあれば切なくなるところもあって、最後には幸せな気持ちになれて本当に胸がいっぱいになる作品です。 (12月2日 23時) (レス) id: 83faa383a3 (このIDを非表示/違反報告)
リィ(プロフ) - どんな幸せな終わり方だよォォォォォォ!!!!滅多に泣かないはずのボクが号泣するとかァ!!!めっちゃ面白かったです!神作品だぁ… (2022年5月18日 11時) (レス) @page40 id: a9f70234e2 (このIDを非表示/違反報告)
たろ。(プロフ) - 序盤めちゃくちゃニヤニヤしながら見てたけど後半号泣してしまった…最高… (2022年5月15日 0時) (レス) @page40 id: ba071d904f (このIDを非表示/違反報告)
ナナナ(プロフ) - なんですかこの神作品は。。。2時間かけて一気に読んでしまいました。。笑って泣ける、本当に本当に最高の作品でした。ありがとうございました、( ; ; ) (2022年4月26日 2時) (レス) @page40 id: 6431d8432b (このIDを非表示/違反報告)
なかむら(プロフ) - ぺさん» 遅レスすみません汗 書簡集、恋文の技術です!!森見さん大好きで……!同士の方と巡り合えてとても嬉しいです!もちろんこちらの夢小説はあちらの足元にも及びませんが(笑)、楽しんで頂けていたら幸いです! (2021年2月25日 21時) (レス) id: cefa07e7cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2017年3月4日 15時