くせに ページ42
(――――あ、)
――その瞬間は、いとも呆気なく、簡単に訪れるという。必ずしもドラマチックな展開の先に待っているというわけでは、ないという。……例えば。
例えばいくつかの刀を捌いたのち、その間をぬって構えられた刀。今迫り来る、それ。
紛れもなく自身の危機だというのに、その光景がスローモーションで見えているというのに。どうしてか私の体は動かなかった。何かに呑まれたかのように、頭が働かない。
この刀が私に到達したとして、それは何を意味するのだろうか。私がこれに貫かれたとして、それの意味することは。――そこまで考えて我に返った。
ギリギリの所に迫った刀をなんとか避けようと、体を動かしたその瞬間。
「――う、わ、」
――思っていたよりも自分の体が大きく動いた。ぐらつくそれはバランスを失い尻餅をつく。誰かに腕を引かれたようで、只々ぽかんとしていたら。
「……つけてきて良かった」
安堵が混じる声とともに目の前に伸びた影。…見覚えのある、シルエット。
(…なに、コレ、……なんで、)
「――やまざき?」
発した言葉は、驚きからかなんだかふわふわした響きを持っていた。目の前の影――山崎は何を返すでもなくただ敵を見据えている様。
いきなり増えた黒い隊服に動揺する敵を前にして、同じく未だ混乱のおさまらない私は言葉を紡ぐことしかできなかった。いつもいつもなよっちいそいつの“らしくない”登場に胸の奥がざわついく。
「山崎、」
敵の動揺をいいことに言葉を落とす、けど。
「どうしてここにいんの、あんた」
「……、」
「だんまりじゃ分かんないでしょーが、さっさと上司に白状、」
「…俺は、」
……落としたそれを遮られたことに、思わず目を見開いた。静かで力強いその響きになんだか落ち着かなくなってしまう。
それにはどんな言葉が続くのか、相変わらずこちらに背を向けたままの山崎を見つめていると。
「―――俺は一応、君より年上だし男だよ」
――放たれた、一言。言葉を失った私へそいつはどこか呆れたような、微笑んだような雰囲気を見せながら横目でこちらを見遣る。
「……だからもうちょっと頼ってくださいって、副隊長」
―――いつも通りの、横顔。私の我儘を聞いて、呆れたような顔。…なのに。
(………クソ、)
内心でそう呟いた。……パシリのくせに。部下のくせに。三十路のくせに。
(―――山崎のくせに、格好いい。)
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朝 - お疲れ様です。やっぱり素敵です。(^O^) (2019年11月1日 18時) (携帯から) (レス) id: 6f8b22e690 (このIDを非表示/違反報告)
1の次は2 - その次は3なのだ (2019年3月11日 16時) (レス) id: 0f19eb4563 (このIDを非表示/違反報告)
ハーレクイン(プロフ) - 山崎がかっこいい…中村さん流石です…!…そんな作者様になら!きっと坂本辰馬も書けると思います!(必死)お願いしますうううう坂本さんマイナーなんですよおおお日替わりしかないんですよおおおお……検討よろしくお願い致します。応援しています! (2018年9月5日 0時) (レス) id: b56fa1b191 (このIDを非表示/違反報告)
ワサビーム(プロフ) - 中村(平日低浮上)さん» こちらこそすいません!更新、頑張ってください! (2016年9月30日 18時) (レス) id: 4ee0338bf1 (このIDを非表示/違反報告)
中村(平日低浮上)(プロフ) - ワサビームさん» ご指摘ありがとうございます!!そのあたり全く調べずに書いてしまっていました…申し訳ない(´Д`;) 色々と調べた結果、原文丸々というわけではないので参考と直させて頂きました。細かいなんてとんでもないです!ありがたすぎます!本当にありがとうございました!! (2016年9月30日 15時) (レス) id: c9af2bf87c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2016年9月19日 21時