勝手にしやがれ ページ48
私の言葉にそういやそうだったか、なんて頭をかいた土方十四郎。寝覚め頭はお互い様らしい。
彼は一度掛け時計を見上げたのち。
「――多分大丈夫だろ」
「いや多分ってそれ大丈夫じゃない」
「大丈夫だ。ここにいたのはバレてねェだろうし屯所のあたりに張られてても大人数じゃねェだろ。対処できる」
「あんた怪我人ですけど」
「かすり傷っつっただろ」
何なんだこの男は。一歩も引かねえ。
まぁ本人が言うなら勝手にしろという思いを込めて、着替えるためか隊服を手にとったそいつに私はため息を吐いたのだった。
*
「――世話になったな」
起床から20分強、漸く頭が覚醒しだした私の前には、すっかりいつも通りの黒い隊服に身を包んだ土方十四郎がいた。玄関で見送っているところである。
「これ、どうする」
――と。言いつつ着流しを差し出す土方十四郎。……どうするって。
「匿い料として捨ててもらったりとかってどうでしょう」
「そこまでのいわくつきかこりゃ」
「だから元の持ち主は体目当てのクソヤロウだったんですってば」
それを押し返すと意外にも受け取ってくれた。拍子抜けである。
とにもかくにも帰るらしいそいつを少しだけ引き止めて、あるものを手渡す。
「――どーぞ」
「なんだこりゃ」
「わかんねえのか握り飯だカス」
「全くわかんねェどうして今のでそこまで罵倒されたのかこれっぽっちもわからねェ」
どういう魂胆だ、なんて眉間に皺を刻む土方十四郎。てめえ喧嘩売ってんのか。
「あんたが着替えてるうちに作っただけです。もし帰り道で追っ手と鉢会ったとして腹が減って力が出ないんじゃ私の匿いが無駄になります」
「……お前が俺を案じるとは」
「喧嘩を売ることしかできねえのかコノヤロウ」
「冗談だ、ありがたくもらっとく」
――そうして、ここで土方十四郎はこちらに背を向けた。がちゃりと開けられた玄関のドアの向こうから朝日が射し込んでくる。
「まぁ、アレだ」
思わず目を細めた私をそいつは振り返り、歯切れ悪く口を開いた。
「――――…不本意だが、助かった」
ありがとな、と。
「…どーいたしまして」
慣れないシチュエーションの慣れない台詞へ対応に困り、発したのはいつも通り無愛想な言葉だった。背中でそれを受け止めた土方十四郎は朝日の中に消えてゆき。
そんなこんなで、私のイレギュラーな一晩は朝を迎えたらしかったのだった。
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軒夜月 - めっちゃ面白いです!よくこんなネタ思いつきますね(汗)すごいです!これからも頑張ってください! (2016年10月19日 0時) (レス) id: 0ff51cc9e5 (このIDを非表示/違反報告)
蘓澳 - こんな、面白い話を書くのは誰なんだろうと思い、作者を見たところ、やはり中村さんだったという.....!中村さんの小説大好きです!これからも頑張ってください!応援してます!!これからも末永く読ませていただきます!笑 (2016年10月10日 22時) (レス) id: 6f5c53b9aa (このIDを非表示/違反報告)
中村@低浮上(プロフ) - 皆様コメントありがとうございます!お陰様で一巻完結とさせていただきました。二巻もお付き合い頂ければと思います!よろしくお願いします(*^_^*) (2016年8月27日 6時) (レス) id: c9af2bf87c (このIDを非表示/違反報告)
名無し17343号(プロフ) - この小説を読んで、土方さんがもっと好きになりました!キャラ崩壊してなくて、とても読みやすいです。 (2016年8月26日 11時) (レス) id: 683d111013 (このIDを非表示/違反報告)
紅桜 - すごく面白いです!更新頑張ってください! (2016年8月25日 9時) (レス) id: 00e4fea1b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2016年8月14日 9時