222 『あなたもそうよ』 ページ46
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「胡蝶さん」
「──? Aさん。どうしたんです」
夜遅く、しのぶの部屋を訪ねて来たAは、申し訳なさそうに眉を下げていた。夜分遅くにすみません、と言う彼女に微笑みながら「いいんですよ」と返す。
ちょこちょことしのぶの前にやってきた彼女は、「あの、な」と口を開いた。
──曰く、夢を、見るらしい。
どんな夢かは朝になったら覚えていない。だが、毎日毎日、夢を見ていることだけは確かである。毎日違う。映像がある。感情も呼び起こされる。恐らく過去。過去の映像が、何度も何度も、思い出せとばかりに夜ごとに襲うのだ。しかし朝になったら、全てが無になっている。
「これ、記憶を取り戻しそうになっているって、ことなのかな」
「────」
しのぶは顎に手を当てて考えた。夢は脳と直結している。夢に過去が出て来るなら、確かに思い出す可能性は高いだろう。
しかし朝になったら思い出せない──そんなことがあるだろうか? せめて少しくらいは覚えているものではないだろうか。しのぶがそう訊ねると、「本当なんだ」と彼女は緩くかぶりを振る。『夢を見た』。そのことだけしか記憶には残らないらしい。
恐らくそうでしょうね、と言うと、彼女は深く息を吐いた。その息に失望の色が混じっていることにしのぶは気づく。彼女も気づかれたことを悟って、「あ、いや」と頭をかいた。しかし隠し切れないと思ったのか、もう一度息を吐き出す。
「私は……、『神々廻A』が、嫌いなんだよ」
「──? ……どういう」
彼女も神々廻Aだ──何を言ってるのか、しのぶは理解できなかった。しかも、『神々廻A』に微妙な
Aは視線を上げた。しのぶの紺と金がばちりとかち合って、
「胡蝶さんも嫌いだっただろ?」
「────」
咄嗟に否定の言葉が出なかった。だが今から否定してももう遅い。終わりなき逡巡に心を捕らわれるしのぶを見て、Aは「いいさ、私もそう思ってるんだから」と言う。
仮にも自分だ。記憶が無くなっているとはいえ自分だ。それを、まるで他人のことかのように喋る彼女は、しのぶの目には異様に見えた。
「あいつなんか戻ってこない方が良い。このまま記憶が戻らなけりゃ──みんな幸せなはずだ」
しのぶは答えなかった。肯定も否定も、彼女はできなかった。
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白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年12月20日 17時