失くしたものを、ずっと探し続けている。【鬼滅の刃】

200　『火男』 ページ24

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　刀鍛冶の里は大して広くはない。集落一つ分、くらいのものである。此処に住んでいる人数を考えたら少し狭いくらいのものだが、鍛治達は揃って刀のことしか考えていないので、娯楽施設が存在しなくとも全く問題はない。

　という訳でAは完全に暇をしていた。何だかんだこの里には訪れたことがあるが、鬼殺隊士の間で有名な温泉には入ったことがない。だが時刻は昼である。昼から風呂に入る趣味はAにはなかった。


　刀鍛冶の間で、Aのことは有名ではない。無論隊士の間では知らぬ者はいないというほど悪い噂が広まっているが、良くも悪くも刀鍛冶の連中は噂に疎い者ばかりである。里の外で何が起ころうと、とある隊士がどんな暴行を働こうとそんなことは知ったこっちゃない。

　息苦しさは感じなかった。どころかにこやかに挨拶をしてくる人もいて──勿論ひょっとこのお面を付けたままだが──普段人から向けられる視線は嫌悪か恐怖でしかないAからしたら、むしろ居心地の悪さを感じるほどである。




「──ん？ おい、そこの女」

「あ？」




　呼びかけられた声に鋳蔵かと思って振り返るが、彼はAのことを名前で呼ぶし、声の調子が少し違う。その人物のひょっとこの面を見て、ようやく名前が脳内ではじき出された。



「ああ、蛍か」

「名前で呼ぶなよ」

「長えだろ、鋼鐵塚」

「チッ」



　刀以外に関しては意外と常識人が多い刀鍛冶連中だが、Aの前で舌打ちをした人物は違う。何処をとってもイカれた野郎である。

　鋼鐵塚はズカズカと此方に歩んできたかと思うと、彼女が腰に差している刀を許可もなく抜き取った。「あ」とAが声を漏らすが、それに構わず鞘から刀を抜いてしげしげと眺める。面倒なのでAもそれを止めず、彼はしばらくそうしていた。


　そして唐突に抜き身の刀と鞘を二つ同時に放り投げる。危ねぇなコイツ、と思いながら回転する刀の柄を握り、鞘を腰に戻した。鋼鐵塚はフンと鼻を鳴らす。



「やっぱ良い刀だな」

「──。だろ。自慢の刀鍛冶だ」

「俺の！ 方が！ 良い刀鍛冶だけどな！！」



　キーッと癇癪を起こすように叫ぶ鋼鐵塚。これで二十歳越えとは恐れ入る。


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