俺には、お前の言うことが理解できねえよ。【鬼滅の刃】

92　『祈りとは形骸化するものである』 ページ7

.


　夕餉を食したのち、二人は酒々井の言う神社へと来ていた。屋敷の主人らもその神社の場所は聞き及んでおり、わざわざ紙に地図を書いてくれたのだ。


　元々は、近くにある川の神様の場所だったらしい。度々洪水などが起こっていたが、神社を作り神様を祀ったところそれがピタリとやんだ、とは此処いらでは有名な話だそうである。

　しかしここ最近はめっきり形骸化しており、絶えずその神社にお参りしていた高齢の女性も、先日亡くなってしまったそうだ。神社を管理する立場の者も特に決めてはおらず、お供え物すらまともにされていないであろう、との言だった。


　此処で宇髄が疑問に思ったのが、その話を聞いたのち、妙に無表情になって「そういうことか」と呟いたAのことである。何が『そういうこと』なのだろうか、と思った。形骸化した故の鬼の住み着き、ということだろうか？



　まあそんな風に思案しつつも、屋敷からその神社までは長い距離ではなかったので、存外すぐに到着した──たしかにかなりの荒れ地である。人が通っていたらしき畦道があるが、雑草が所構わず生えまくっていてひどいものだ。

　一応ぐるり、と一周してみたが、中に鬼がいる気配も様子もない。

　一息吐いて、宇髄が中に這入ろうとして──それを、Aが止めた。




「……あ？」




　かなり背が高い宇髄の肩に、彼女の手が置かれている。本日は星月夜な為、普段よりは暗いが彼女の顔ぐらいは見える。──いつもより、妙に険しい表情な気がするのだ。

　Aが首を降り、宇髄の前に出ようとする。勿論止めた。


　宇髄とAの実力差は彼女もわかっていることのはずだ。そうならば何故止める？ 先行するのが実力の高い方なのは戦場の鉄則。鉄砲玉などは例外として、この状況では限りなく彼が先に行った方が良いのだ。……なのに、何故。

　宇髄が動かないことに苛立ちを覚えたAが、「良いから」と言う。いや、全くもって何が良いのかわからない。



「バカ、俺が先に行くから」

「自分が行く。大丈夫だ、多分すぐさま叩き出されるなんてこたぁねえ」

「は……？ 鬼は見たとこいなさそうだぞ？」

「じゃあお前も行かなくたっていいじゃんかよ」

「何かあったら困るだろうが」



　頑としてそこを譲らなそうなAに、宇髄は軽く舌打ちをし──そのまま彼女の二の腕部分を引っ掴んでぶん投げた。要するに、背負い投げである。


.

93　『激励に畏怖に』→←91　『的確な判断』

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す