俺には、お前の言うことが理解できねえよ。【鬼滅の刃】

124　『ある日の出来事、参』＊ ページ39

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「────」



　微かな息遣いを、Aは肌で感じ取った。生暖かい、何かの吐息が肌に掛かっている。

　惣平だろうか、と寝惚けた頭で考える。──すぐさま理性がそれを否定した。普段なら四人で川の字になって寝ている。けれど今日は違ったのだ。さっき、いやさっきかどうかはわからないのだけれど、Aは喉が渇いたので水を飲みに行った。そのまま台所で寝てしまっていたのだ。



　誰かが、此処に、いるはずが。



　飛び起きて、泥棒か何かかわからないものから逃げようとした瞬間、




「──ぎぁぁあああッ！？」




　絶叫が耳を劈(つんざ)いた。それが自分のものだと気づいたのは一拍遅れてのことだった。同時に生暖かいものが腕から垂れる感覚がした。それの根源と思われる部分からは、何かが漏れ出していて。

　血だ、と感覚的に理解した。斬られたのだ、何かに。泥棒は包丁を持っていたんだろうか。

　熱と痛みが同化して、絶え間なくAの頭蓋骨を叩き割ろうとする。痛覚を感じる場所が腕だけに集中し、それを遠慮なく引き裂かれているような痛み。鋭い痛みを感じたのは最初だけで、次は鈍痛が波のように迫って来る。


　チッ、と舌打ちが聞こえた。仕留め損なったことに苛立ったのだろう。泥棒が迫って来る気配がして、無我夢中でそれを撃退する為の道具を探した。──指先が固い何かに当たる。釜だった。米を炊く時にいつも使っている、釜。



「──あぁ！」



　それを思い切りぶん投げる。火事場の馬鹿力というのだろう、十三歳の発展途上の体ではとても持てないような重さの釜が宙を舞う。流石の泥棒もそれには驚いたようで、怯んだように足音が止まった。


　全速力で家の中を駆け抜け、三人が寝ている処に駆け込んだ。既に三人は彼女の絶叫により起き上がっており、ちょうど蝋燭(ロウソク)を付けようとしている処だった。血の気が引いた顔で走って来た彼女の顔を見て、フェルナンドが「どうしたんだ」と上擦った声で訊く。

　Aは火が付いた蝋燭を見て、言葉を失っていた。無事な家族の顔を見て、思考回路が切断されたように何も言えなくなる。


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