俺には、お前の言うことが理解できねえよ。【鬼滅の刃】

118　『よる』 ページ33

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　夜。



　Aは、『よる』というものが嫌いだった。『よる』が来れば、幼かったAと弟はどれだけ遊びたくても布団に押し込められたからである。『よる』は『ひる』とは違い、外にも行けないし中で遊ぶこともできない。それに、『よる』は暗くて寒かった。だから嫌いだった。

　鬼が家族を殺したのも『夜』だった。あの日以来、『夜』がくれば誰かが死ぬ、そんな妄想が彼女を取り巻いてやまなかった。それは妄想ではなかったのかもしれない、と知った時は、愕然とすることしかできなかった。




「────」




　ただ、今は違う。むしろAは『夜』が好きだ。


　暗い夜の中に、月を見た。月(ルナ)というのだ、と父が教えてくれた。太陽はいつも見守っている、と教えてくれた父に、では『よる』はどうなのだ、と質問した時に教えてくれたのだ。父は呵々大笑して、びっくりするAの頭を優しく撫でてくれた。

　昼の喧噪よりも、夜のしじまが好きだ。吹き抜ける風に身を委ね、鼻歌を葉と共に謡(うた)う。


　誰とも関わらなくて良い時間。誰にも告げなくて良い時間。誰にも■■れないで済む時間。それが彼女にとっての夜なのだ。他の奴がどうなろうと知ったこっちゃない。夜だけが己の味方だと、──そう思うのだ。




「眠れねぇのか」

「────」




　だから、唐突に自分に話しかけて来た影がいることに、Aはいつかと同じように金眼を見開いた。丸くなった目と同じぐらいに、丸い満月がお猪口に映ってさかしまに揺れている。ちなみに彼女は成人してない。宇髄もそれはわかっているが、それは苦笑するだけに留めた。


　元々Aは、寝付きが悪い方だ。一度目の襲撃のあとからこれだけ眠りたくなるのが速くなる生活になってしまった。それでも時たま、どれだけ眠りやすい布団の中に入っていても眠気が忍び寄って来ない日がある。それが宇髄と出会う日に二度も被るというのは、偶然とは底知れぬものである。


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