俺には、お前の言うことが理解できねえよ。【鬼滅の刃】

100　『鬼殺隊』 ページ15

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「お、い……」

「────」



　宇髄はその男が消えたことにもまた驚き(この短時間で一体どれだけ驚けばいいのか)、それからAに声を掛けた。その後ろ姿が、随分と、いつもと違うように見えたからだ。第一彼は二人の内片方の言葉しか聞けていないので、一体二人の間にどんな話し合いが行われたかすらもよくわかっていない。

　Aはふっと夜空を仰ぎ、それから此方を向いて苦笑する。完全に眠ってしまっている子供達を指さして、「その子ら、寒いだろうから早く連れ帰ってやれよ」と言った。


　──それが気に喰わなかった。どういうことか欠片も説明されていないのに指示されることも、その此方を無視したように喋る口調も、その笑みも。


　宇髄は気に喰わなかった。




「待て」

「────」




　宇髄は彼女の手首を掴んだ。驚きに見開かれる彼女の片目に、宇髄の険しい表情が映っている。


　そもそも。そもそも、彼女の行動原理は何なのだ。


　あれだけ鬼殺隊で流布(るふ)している噂を鑑みても、この女が良い人物だとは言えない。それは確かなのだ。それが確かなのはわかっている。ただどうしても矛盾が拭えない──今のもそうだ。他人に気遣いを見せたことがあったか、この女が？ いいや、少なくとも宇髄は見たことがない。

　なら何なのだ。子供だけに見せる優しさ？ 違うだろう。これは完全なる憶測だが、絶対に鬼殺隊の年下でもこんなことはしない────鬼殺隊の。きさつ、たいの。



　鬼殺隊の、人間？



　正解に辿り着きそうだった宇髄の思考に横やりを入れたのは、Aだった──宇髄の手を振り払って、彼の拘束から抜け出す。拘束というほど大したものでもなかったが、柱の筋力で離さないようにと掴まれたら、それはもう拘束と言って間違いないだろう。

　いきなり行動がおかしくなったように見えた宇髄に、彼女は厳しい目を向けて「何だよ」とつっけんどんな口調で言った。い、や、と彼が口籠るのを不審そうに見上げる。


　少なくとも、何か、会話を。


　このまま自分が、彼女のことを名にも知らないというのは──宇髄は口を開いた。




「あれは……、『あれ』は何だ？ 鬼、なのか？」




　彼のその言葉に、Aは聞かれたくないことを、とでも言うように顔を少し歪めた。しかしその追及からは逃れられないと悟ったのか、肩を竦める。


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