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#29 織田作之助の困惑、壱 ページ30

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 私は太宰が去った後、自分の前のグラスを見つめていた。まだ私は飲んでいなかったので、それは溶けた氷以外は先程と同じ見た目だった。

 飲む気にはならなかった。しかし彼が私を殺そうとしているようにもまた思えなかった。悩みどころだ。美味そうな見た目はしているが、これが最後の酒だと思うと流石に飲む勇気は私にはない。

 なので一つ溜め息を吐いて、この店を去ろうとした。その溜め息が一体何処に行くかなんてぼんやりと考えながら。



 私が立ち上がろうとしたほぼ同時の(タイミング)で、ドアベルが鳴った。一瞬彼が戻って来たのかと思ったが、そちらを見ると、全くもって正反対の人物がいた。小柄な女──探偵社の同僚である、暁Aだった。




「A」




 名前を呼んだ。彼女は荒く息をしていた。シャワーでも浴びたのかと云いたくなるぐらいに髪の毛や体はびしょ濡れで、ぽたぽたと前髪から雫が滴っている。服は今朝見たものとは違い、動きやすそうな私服に着替えられていた。


 何故此処に来たのだろう。此処は私以外知らないはずだ。


 そう問い掛けようとしたが、そうする前に、Aが『あの人に──それを向けたんですか』と云った。言葉の意味も意図も判らなかった。しかし彼女の視線で、それとは私の拳銃のことを指しているのだと気が付いた。

 しかし相変わらず、何故そんなことを問いかけたのかが判らない。だが彼女はよくそんな話をする。此方は何も判らないのに、彼女だけが全てを理解しているような状況がたまにある。


 今回もそれにあたるのだろうか。私はそう考えて、「ああ」と頷いた。



 刹那────映像が見えた。彼女が私のことを殴る映像だ。何の対応もしていなかった私は思い切りそれを顔面に喰らい、勢いのままカウンターに手を突いた。そこで映像が終わった。

 Aは私のことを殴ってなどいなかった。しかしその瞳は憤怒に燃えている。私は意味が判らなかったが、とにかく頭を後ろに引いた。彼女の拳が空ぶる。




「何を──」




 続く連撃に、私はその口を閉じる他はなかった。


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ゔい(プロフ) - 今更ごめんなさい。はじめまして。初コメです。面白すぎて一気読みしてしまいました。主人公も終わり方も天才的です。本当にありがとうごさまいます。ありがとうございます…… (2022年11月25日 18時) (レス) @page43 id: 4eb6cf0149 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - over the rainさん» 毎日読んでくれましたか!!先に全部書き終えておいて一日更新にしておいた甲斐がありました……!本編はそうはいかないので三日毎更新ですが、これからも上手く書けるように頑張りたいと思います。 (2020年7月8日 15時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - Beast完結(?)おめでとうございます!毎日楽しみに読んでいました!本編も応援してます! (2020年7月8日 6時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 桜ノ呼吸の使い手さん» コメントありがとう御座います、はい完結致しましたァ〜〜!!面白く飽きのこないような作品を作っていきたいと思っているので、本編の方も頑張っていきたいと思っています。 (2020年7月7日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
桜ノ呼吸の使い手 - え!?こんなに面白い作品が書けるんですか!?初コメですが完結おめでとうございます! (2020年7月7日 20時) (レス) id: e5b2323101 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/  
作成日時:2020年6月6日 17時

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