【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

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　春はまだ遠い。花も草も、まだ眠りの中でその季節を待っている。かつてのおれがそうであったように。かつての彼女がそうであったように。

　夏の果てで、おれたちは水の冷たさを知った。過ぐ秋で紅葉の色を知った。雪明かりを灯す冬の中で、暖炉のあたたかさを知った。

　潮鳴りのする雲を抜けたさき、おれたちは何を知るのだろう。桜の咲くロスサントスで、おれたちは何ができるのだろう。──きっと何もできることはないのだろう。おれたちはこの街で、理不尽を笑い飛ばしながら自分の人生を生きていくだけなのだろう。



　それでいいと思った。


　おれの人生に指をかけるのは、後にも先にも、この人だけだろうから。









「おめでとう〜〜〜〜ッッ！！」
「うわ待っ」「きゃあ！？」「ちょいたっ」
「──はッ？」


　屋上のドアが開け放たれる音とともに、バカデカい声で祝いの言葉が叫ばれるのと複数人の悲鳴。ぎょっとしてすぐにAさんから手を放して振り向けば、涙ぐみながら「おめ、お、おめでどう」と口許を押さえる署長と、……ドアの部分で将棋倒しのように折り重なって倒れている警察署員の姿。

　唖然として彼らのことを見つめる。は？ なに？ な……、なん、なんだ？
　サッと隣のAさんを見れば、彼女も全く事の次第がわからぬと言ったふうにぶんぶんと首を振って説明を拒否する。


「お、俺は嬉しいよ、本当に……」
「いや署長、え、どういう……、なんすかこれ」
「ち、違うんだらだお！ ネルがヘリが帰ってきたって言うから来ただけなんだ！ オルカたち別に、別に全然盗み聞きしようとか思ってた訳じゃなくて、ホントにただ出るタイミングを見失ってただけなんだぞ！」
「ちょボクぅ！？ いや違うらだおくん、ボクはヘリが帰ってきたって言っただけで、見に行くって言ったのはキャップ！！」
「俺かよ！？ 待ってくれらだおくん、ちが、いやだって、なあ！？ 俺は別に一人で見ようとして、それで皆で行こうって言いだしたカニくんだぞ」
「は？ は？ 違いますよ何言ってんすかキャップ。らだお先輩かわいい後輩と特殊刑事課どっち信じるんですか？ 俺ホントになにも言ってません知りません誰だそんなことを言った奴は許せねぇ、なに沢まるん！ らだお先輩任せてください後は全部俺が処理します」
「ちょっと待って詐欺罪発生した急に。違いますホントに成瀬ですガチです。はい詐欺罪切りました」
「…………」


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