【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

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　そしてそのままAさんの手を自分に引き寄せて、抱きしめた。柔らかかった。人の体温がした。泣きそうになるくらい暖かかった。早朝に残る焚き火のように。


「ま、ま、まって、らだおくん」
「待たない」


　短く答えて、Aさんのことをきつく抱きしめる。彼女の踵が浮いてるのがわかって、身長差に笑ってしまいそうになったし、身体の薄さがあまりにも自分と違いすぎて怖かった。だけど全部無視して、Aさんのことを必死なくらいに抱きしめた。未来の自分が笑ってもどうでもよかった。おれは今のおれだ。


「──好きです」
「わ、かった。いや、わかってる、から。はなして、待って」
「本当に好きです、Aさん、ああ、もう……おれのこと殺す気ですか、心臓吐いて死にそうでしたおれ」
「なんで！？」


　肩に頭を押しつけると、Aさんの悲鳴がすぐ横で聞こえて思わず笑う。Aさんは硬くしていた体からすこしだけ力を抜いて、「……もう」と呆れたように息を吐いた。それで全部許される気がした。




「──あいしてる、」




　泣きそうだった。それ以外に愛を伝える方法なんてなかった。抱き締めて愛を囁いて、それ以外になんかやることあるだろって言われても、これ以外に思いつかないんだからどうしようもない。本当に好きで、本当にそれしか考えられなくて、この人のせいでおれの人生メチャクチャだ。

　Aさんはちょっとだけ息を止めた。抱きしめているとそんなことすらわかってしまうのだから、おれの心臓がどんなに騒ぎ立てているかなんて彼女にもまるわかりだろう。


「わたしも」


　空気に溶けいるような淡い声で、Aさんは小さく呟いた。

　幸せってこういうことだ、と思う。好きな人を抱きしめること。互いに愛を確認しあうこと。法律も人生も万有引力もメチャクチャなこの街で、ただ一つ確かな気持ちを持つこと。冬の街であたたかな場所を見つけること。幸せを見つけた、と断言できること。


「────」


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