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その笑顔を例えるすべを、おれは知らない。本をたくさん読んでおけばよかったと、この日ほど後悔した時はない。ひまわりみたいで、太陽みたいで、花みたいで。おれの持つ語彙力は全部うすっぺらくてそこらへんにあるものだった。もっとこの人のためだけに存在する言葉があると思ったのに、おれの頭は何も出してくれなかった。
温度でたとえるなら、それはあたたかな笑顔だった。季節でたとえるなら、春の笑顔だった。花畑の中で笑う彼女を見てみたいと思った、きっと、本当に似合うだろうから。
Aさんは黙りこくるおれをちょっと見て、視線をちらちらと移動させる。
「こ、ここまで来たのは、らだおくんに一番似合う場所だと思ったの。きみのことをずっと、う、海みたいな人だなって思ってて。なんかうまいこと言おうとしたんだけど、なんか、わやくちゃになっちゃったな。ナツメと一緒にここまで来たことがあるんだけど、本当に綺麗だったから。きみにも、見せたくて」
おれは無言で操縦桿を思いきり傾けた。Aさんは「おわ!?」とシートベルトを掴んで悲鳴を上げる。それを無視して最速で高度を下げていくと、すぐに雲の波を突き破ってロスサントスの地上が見えてくる。
「Aさん」
「はや、はや、はやい! なん、なに!?」
「ひとつ言っておくと、おれはメチャクチャ嫉妬深いです。おれといる時に他の男の名前を出されるのは、正直に言うとマジで嫌です。だから今すぐ署に帰って、あなたを抱きしめていいですか」
「ぅ、は? なんて……はッ?」
困惑する彼女を置いてきぼりに、地上はどんどんと近づいてくる。ほとんど自由落下に近いスピードで高度を下げていったおれに、Aさんはヤバイヤバイと悲鳴を上げて機体にしがみつく。それすらかわいらしく思えて、ああ自分はそうとうこの人が好きなんだ、と思った。だって他の奴がそんな反応したって、よく音の鳴るおもちゃくらいにしか思わない。
本署の屋上に激突する寸前(いうても五メートルほど前)に勢いよくヘリの頭を上げて、いつもより荒いホバリングをしながらヘリポートに降り立つ。ヘリをしまう手間すら惜しんで、操縦席の扉を勢いよく開けた。Aさんはもたもたとシートベルトを外すのも待てなくて、彼女の手に重ねてシートベルトを外す。
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時