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 おれは黙っていた。すこしずつ浮かぶ雲を避けながら、ただヘリを上昇させていた。


「すごく素早くて、銃の腕も上手で、私てっきり警察のえらい人なのかなって思った。だけど『ぼく、今日やっと警察になったんです』なんて言うから……、びっくりした。こんなに震える手を握れるような人が、警察になったばかりなんて信じられなかった」
「────」
「尊敬した。こういう人みたいになりたいって思ったの。誰かの手を引いてやれるような、やさしい人になりたいって。──だから、きみが、私のことを道しるべって言ってくれたとき、本当に嬉しかった」


 雲を抜けてゆくと、視界にはもはや青色と白色しか存在しなかった。海を思わせる雲の波と、宇宙に近い空のあいだにおれたちはいた。雨だって雷だって、いまはおれたちに関係なかった。


「皇帝くんと、さっき、すこし喋った。私はどうしたいのって、訊かれた。……本当に優しい人だと思う。他人のことを思いやれる警察官だよ、皇帝くんは」


 Aさんが次に何を言うのか、おれは全く見当がつかなかった。いや、そんなの彼女をヘリに乗せた時からだ。Aさんが滔々としゃべるのを、おれは頭の中で処理するのにいっぱいいっぱいだった。
 操縦桿を握り締める手に力が入ってしまって、あばらが痛む。それで回転する頭をすこしだけ抑えられた。今は考えても何も解決しない。


「どうしたいのかって言われても、正直、私はわからない。だけど彼がしてくれたように、私もやらなきゃいけないことがあると思ったの」


 なんだと思う、ってAさんはからかうような口調で訊いてくる。おれはもう、あまりにも理解の遅い頭で、必死にこれからの展開を考えていた。だけど俺の処理スピードは現実と全く同じで、もう完全にお手上げだった。


「なん、すか」


 なんでこんな声の汚いやつがこの人と喋れてるんだって思った。自分の声が好きだと思った経験はないに等しく(枯れづらくて便利だと思ったことはあれど)、その最骨頂と言ってもいいくらいだ。大事なところで噛むし詰まるし。いますぐここから飛び降りろって言われてもAさんの安全が保障されるならすぐに飛び降りただろう。

 Aさんは微笑った。ちょっとだけ照れくさそうに、ティーンみたいに素直な表情で。




「きみが好き」



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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/  
作成日時:2024年2月10日 14時

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