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 急に目の前に現れたAに、青井は鬼のヘルメットを軽く引いて「な、んすか」と戸惑いの声をあげる。署員も突如割り入ってきたAに目を見開き、「Aさん?」と声をあげる。


「ら──だお、くん! ヘリのせて! ヘリだして!」
「えっ? え、はい……え? いま?」
「いますぐ!」


 はい? と困惑したままの青井を引っ張って、疾風のごとく警察署の中へと飛び込んでいくふたり。署員たちはそれをぽかんとしたまま見送って、それから互いに顔を見合わせて笑った。成瀬と猫マンゴーはけらけらと愉快そうにしたし、ひのらんとネルは口許を押さえて乙女のように飛び上がったし、つぼ浦とオルカはきょとんとして一緒に首を傾げた。

 皇帝は体の緊張を全部肺に集めて、それをたった一つの溜め息に収めた。深く雪の積もる山道を歩いている時のように、一歩ずつ着実に歩を進めて、警察署の裏で座り込む。胸ポケットから煙草を一つ取り出して、皇帝が本当に皇帝だった時から使っているジッポで火を灯す。煙を吸い込んで、あまったものを吐き出せば青空へとくゆる白煙。


「──皇帝」
「……ドリさん」


 ふ、と顔を上げれば、いつも通りの三つ編みでサングラスをかけたミンドリーがいる。ドリーは生垣をひょいと乗り越えて皇帝の隣に立った。


「おつかれ」
「────」


 ドリーは、そういう男だった。何も言わなくても察するし、こっちがしてほしいことを無言のうちに読み取って、誰かのために行動してやれる男だ。彼が本当に何でもないように行動するから、救われた人間も気負わずに済む。

 皇帝はうすく笑った。そうかな。疲れてんのかな、我。別にそんなんじゃないと思うんだけどなあ、だって、Aさんのために何かできたなら、おれはそれでいいのになあ。


 ああ、でも、だけど。




「──ホントに好きだったのになあ、」




 ぽろりと零れた本音を追うように、視界がじわじわと滲む。あれ、と思う間もなく、ボロボロと涙が頬を伝っていく。あれ。はは、なんで泣いてんだ、俺。なんで。

 ぐすんと鼻を鳴らす。煙草を地面に取り落としたが、そんなことはすぐに彼の頭から蹴っ飛ばされていた。拭っても拭っても、澎湃と流れる涙はどんどん自分の制服を濡らしていく。

 ドリーは「うん」と言った。


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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/  
作成日時:2024年2月10日 14時

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