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「────」
く、と喉を締め付けられる心地がした。風にさらわれるほど小さい皇帝の声に、Aはバッと隣を振り向いて彼の顔を見る。──だけど、想定していたよりずっと、彼の顔は穏やかだった。
「思うままにいてくれ、って、Aさん言いますよね。我らのやりたいことをやってくれって。──我、Aさんが好きです。Aさんは、だれが好きなんですか?」
「────」
「Aさんは、どうしたいんですか?」
すぐ隣にいる彼女にしか聞こえない音量で、皇帝が問うた。Aはサファイアの瞳をゆらゆらと震わせ、唇をわななかせる。今まで自分がかけていた言葉が真正面に迫ってきて、呼吸すら止まる心地だった。
『Aさん』
鼻の奥がツンとする。心から喉を通り、頭の中心を過ぎた熱い塊がまなじりから零れ落ちる。ふ、と僅かな嗚咽とともに両手で口元を覆ったAは、朝露のようにはらはらと涙を零した。
『ほんとうに、あなたが無事でよかった』
──ああ、わたし、
「らだおくんが、すき」
「────」
小さくしゃくりあげて、Aはまた口を開き「ごめ……、こうて、く」と途切れながら零す。
そんなことか、と思った。あなたはそんなことをずっと気にしていたのか。本当になんでもないのに、──なんでもない訳じゃないけど、でも、あなたのためだったら全然我慢できるのに。あなたが笑ってくれるなら、自分の胸の痛みなんて、それこそ笑い飛ばせるくらいなのに。
皇帝は笑って、「我が勝手に好きになっただけですよ」とAの腕を引いた。いつか彼女が聞いた言葉だった。そうして柔く彼女の背を押した。
「言うべきことがあるヤツが、そこにいるでしょう」
トン、と背中を押されたAがふらつくように足を数歩進ませて、すぐ力強くアスファルトを蹴った。たった数メートルをゴールテープを切る直前のように駆け抜けた彼女は、いまだ署員に囲まれてお祝いの言葉を投げかけられている青井の腕を掴む。
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時