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Aはそこから一歩離れて、みんながもみくしゃになって彼の回復を祝う様子を目を細めてみていた。ひどい火傷を負った彼とは違って、Aは彼に庇われた際にできた擦過傷と打撲くらいだったからとっくのとうに完治はしている。
皆に囲まれて照れくさそうに頭をかく青井は、Aよりもずっと遠いところにいるように思えた。秋の足音が遠ざかり、すっかり冬の空気になったロスサントスは澄んだ日光をふりまいている。階段の両脇に植えられた木の木漏れ日が眩しくて、Aはすこしだけ目を細める。
「Aさん」
「ぅ、わ。──あ、皇帝くん?」
びっくりした、と胸を撫でおろす彼女に微笑う皇帝。そして視線を滑らせてAの視線の先を追い、はしゃぐ署員を見やる。なにか言おうとして口を開きかけ、また閉じる。心臓は驚くほど落ち着いていた。自分でも笑ってしまうくらいだった。
「らだおのところには行かないんですか?」
「……んー……。まあ、みんないるし。わざわざ私がいかなくてもなあ、って」
「それは、らだおの心配ですか?」
誤魔化している、ということが丸わかりなAのセリフに、皇帝は言葉を重ねる。ぱちりとAが瞬きをした。物事の火種になることの多い彼だが、ラインを引いた時にはきちんとそれを守ってくれる男だと思っていた。そんな奴が急に内側へと足を踏み入れてきたのだから、どうしたのかと思って彼をまじまじと見るけれど、先に気まずくなったのはAだった。
「Aさんはいいんですか」
皇帝の真っすぐな言葉は、心臓の数ミリ横に剣を突きつける。Aが口をつぐんで、自分を守るように髪の毛をくしゃりと掴んだ。
青井に告白されてから、なんとなく皇帝とは距離を測りかねていた。もちろん青井に対しても。二人に対してどういう感情で、どういう対応をすればいいかわからなかったから。誰かを傷つけることになってしまうんじゃないかって、怖かったから。
「……わたしは、」
──どうしてみんな、人の意見を求めるのだろう。どうしてそんな、私の意思を訊いてくれるのだろう。
皆がしたいことをしてほしいのに。そこに私の意思は関係ないし、私のことなんて、みんな気にしなくていいのに。みんなが嬉しいのが嬉しいし、みんなが楽しいのが楽しい。だから、自分は、どうでもいい。自己犠牲とかそんなんじゃなくて、ただ本当に、それだけで満ち足りている。
「我は、Aさんが好きです」
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時