【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

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　皇帝は明らかに豹変したおれの様子に気づいたのか、「え？ なに？ こわいこわい、ヤバいらだおがおかしくなった！」と飛び上がってドリーさんの後ろに隠れる。苦笑いするドリーさん。どいてドリーさん、そいつ殺せない。


「ちが、違う！ たぶん想像してるんと違う！ ひのらんとかもそこいたって！！」
「ほー？ 話を聞こうじゃないか」


　座り直すおれと、ホッと息をつく皇帝。いやさあ、と皇帝は思い出すように視線を宙にさまよわせた。


「なんか……、なんだっけ？ 強盗とかの帰りだったんだよねたしか。まだ早い時間帯で、ちょうど昼前くらい。そこでたまたま……、伊坂先輩と、ひのらんと、リコさんと、我かな」
「早番メンツか」
「ああ、まあ大体そう。で帰りがけに、伊坂先輩が『ここAさんの家ですよね』って言い始めて。へえーって皆で見てたらちょうどAさんが出てきて、挨拶して、あとなんか流れでそのまま……、Aさんの家で昼飯食った」
「おまえマジでそのヒゲ全部引っこ抜くぞ」
「こわいこわいこわい！ なに！？ サイコパス！？」


　しかもなんで我だけ、と叫ぶ皇帝に溜め息をつく。おまえ……おまえほんとマジテーザーでヘッドショットすんぞ。
　Aさんの家。そうだよな、いちおうあるんだよな。今はナツメさんの家にこもりきりだけど、警察署に寝泊りばっかしている不健康署員たちとは違ってちゃんと家に帰ってる姿を何度か見た。

　伊坂さんもひのらんもリコさんも一緒に食ったのか。うーわ、やばい、血涙出るほどうらやましい。死ぬほどうらやましい。おれも出勤前のAさんと家の前でバッタリ会って昼飯誘われてえ〜〜！！
　うまかったか、と煮えたぎるような嫉妬をおさえつけながら低く問えば、「めちゃうまかった」と親指を立てる皇帝。おいやっぱコイツ誰か殺せ。スプレー消してんのこいつですギャングさ〜ん！


「美味しかったんだ？ いいなあ、俺も食べたいなあ」
「我ドリーさんの中華料理も食べたい！」
「ああ、それはほんとに食べたいな……。店開くんだっけ」
「まだやろうかなーってレベルだけど。ありがとね」


　礼を言うドリーさんにヤッターと皇帝とふたりで手を上げる。なに、と心底おかしそうに笑われて、自然とおれたちの頬も綻んだ。同期ってのは、やっぱ結構いいものだ。


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