25 『いつまでも泣くのが下手ね』 ページ26
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Aさんはいつでもおれの隣にいるわけじゃなかった。彼女の出勤前におれがヘリで出ていたら、当然彼女は他の人の車に乗ったし、逆の時も当然そう。撃ちあいの威力が足りないと思って自分からAさんに同乗を頼む署員だっていた。
おれと遠いところで笑うAさんは、おれの隣で笑うかおと同じ表情をしていた。
──今になって、ナツメさんの言っていたことが痛いほどわかる。
あの人が危険にさらされるのが、一番怖い。あの人の笑顔がほかの何かに奪い取られてしまうことが、おれは一番怖い。Aさんの受ける痛みをわけてもらえるなら、Aさんがほんのすこしでも健やかに生きられるのなら、それほどおれが幸せなことはないと思う。
「──A、さ」
カラン、と珍しいほどじゃないが、耳慣れないというわけでもない金属音。それに気付くのが、たまたまAさんより速かったというだけ。たまたま、Aさんより、おれの方がその音に近かったというだけ。
動いたのは、ほとんど反射だった。突き飛ばさなかった理由も、その瞬間は無意識だと思ったけれど、後になって理解できる。Aさんがおれと離れたところで傷つくのが嫌だっただけだ。それくらいならおれの近くにいてほしかった。
驚いた彼女の矮躯を、手加減なんて考えられないくらいの力強さで抱きしめる。わずかばかりに目を見開いたAさんを覆い隠すように自身の身体に密着させて、──直後、燃え盛る爆風がおれの背中をねぶった。親鳥のいない巣のようにさらけ出されたエサであったおれたちは、それから身を守る術を知らない。
「がッ、」
二人ぶんの体重を軽々と吹き飛ばしたその爆発は、おれたちを団子のように転がす。彼女がおれから決して離れることがないよう、地面に叩きつけられてメチャクチャな平衡感覚の中で彼女の存在だけを確かめる。
熱、と、打撃。ヘルメットがなけりゃ即意識を失っていたくらいの衝撃が頭と体中にガツンとくる。痛い、痛いし、死ぬほど熱い。肺の中の酸素が全部外に出た。息をするにも周辺の空気の温度が高過ぎて喉が焼ける。Aさんにも呼吸をさせないように、ぐっと自分の肩に顔を押し付ける。
──おれが憧れたあなたの背をずっと見ていられるのなら、そんなに素敵なことはない。
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時