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ところが立ち上がろうとした矢先に皇帝もどすんと隣に座って、「よいしょ」とハンバーガーを食べ始めた。それが話を促すものであると流石に察しがついたので、こいつ一口デケェなあと思いながら留まる。
「で、なに? なんか考えてたの」
「ん〜……、や、Aさん大丈夫かなぁって」
おれが彼女の名前を出した瞬間にピタ! と皇帝の動きが止まる。そうして顎がゆっくりと動きはじめて、ああ、と低い声で言った。
「署長の電話にはいちおう出てるっぽいし……、まあ、言うてもすぐそこにいんだけど」
「そうだねぇ」
警察署の目の前、ここからだって視界に入る煉瓦造りの建物の中に、Aさんはいるはずだ。本来そこはナツメさんの家のはずだけど、合鍵をもらったと嬉しそうに話していたのは、本当についこの間の話。
「珍しいね」
「おー、ドリさーん」
「いやあなんか、らだおが悩んでそうだったから相談乗ってあげてた」
上から降りかかってきた声に顔を上げれば、緑の三つ編みを垂らしたドリーさんがおれたちの顔をのぞきこんでいた。生意気なことを言う皇帝を肘で軽く小突けば、「あばば、こぼすこぼす!」と叫んであたふたする。
「なやみ?」と訊ねるドリーさんは手すりに軽く体重を預けてもたれる。いや、まあ、悩みっつーか、なんちゅーか。言いあぐねるおれに、重ねて「Aさんの話?」と訊ねるドリーさん。ああ、もうホントに察しがいいなドリさんは。
「そう。大丈夫なのかなって、ちょっと思ってさ。……Aさんって自炊とかできるんだっけ?」
「さあ……。俺は聞いたことないけど」
首をひねるドリーさん。そうだよな。警察って業務上での関わりは他の仕事よりもずっと綿密で親しい感じはあるけど、プライベートだとぐっとそれが少なくなる。たまに皆で服屋に行ったりもするけど、それも出勤中だしな(出勤中にそんなことするなって話だけど)。
「我食ったことあるよ? Aさんの手料理」
「え」「ハアッ!?」
隣で発された衝撃的なワードに、拡声器を通したみたいなバカでかい声が出る。流石のドリーさんも驚いたような顔で目を丸くしていたけれど、こっちの衝撃はそんなもんじゃない。どっ、おまえ、はっ? なに……なにしてんだこいつ。おれはAさんが料理できるかどうかすら知らなかったのに、こいつ、皇帝、マジ……は?
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時