【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

23　『フラスト・パンザマスト』 ページ20

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「久しぶり〜〜！ さみしかったよー、Aさ〜〜ん！！」
「わぶっ」


　突撃してきたのは、タコスの被り物をした女の子。予想はしていたけどそれよりも力強いタックルに潰れるような声をあげてしまうが、彼女は何も気にせずにタコスをぐりぐりと私に押しつけた。中々皆い甘え方にふは、と笑いが漏れる。


「ひのらん、さみしかったの？」
「寂しかったですよう！ もー大変でしたからね、犯罪者にだってAさんいないのかって訊かれたんですからね！」
「あはは！ なにそれ」


　高く笑い声をあげれば、「Aいるかー！？」と署内へと突入してくる青いかたまり。オルカ、と彼女の名を呼べば満開の笑顔が咲く。そしてひのらんと同じように私へ突撃してきて、三人でおしくらまんじゅうみたいにむぎゅむぎゅと密着する。

　かわいいなー。なごむなー、後輩。


「私がいないとき、なんかすごいこととかあった？ なんもなかった？」
「なんもなかったぞ！ オルカたちな、いっつもAたちに頼りすぎてるからオルカたちだけでもやれるようにしようって話とかしたんだ！」
「オルカは本当にえらいねー……。ひのらんはどう？ ダウンしなかった？」
「しましたっ！」
「したんだぁ」

　元気のいい返事に笑みが零れる。オルカはいつも持っているボストンバッグの中からハンバーガーを取り出して渡してくれる。なに？ 餌付け？

　外からエンジン音と何人かの話声が聞こえてくる。家の中でとじこもっていれば聞こえなかったそれに、私はゆるりと頬をゆるめた。



　＋ ＋



「らだおくんはなにか言ってました？」


　駐車場前でのんびりとだべっていた中で、ドリーくんがそう言った。わちゃわちゃと騒いでいる他のメンツから一歩下がった私にしか聞こえない音量で問われた内容に、私はすこしだけ首を傾げ、それからあの夜を思い浮かべ、一瞬体が止まる。
　ドリーくんはそれに気付いたようだけど、何も言わずに話の続きを促していた。


「……は、げまして、くれた。かな」
「そうですか」


　彼は柔らかく笑った。らだおくんと同い年だと聞いていたけど、らだおくんとはまた違う笑い方だ。花で例えるなら、桜みたいな。春嵐で散った花びらを踏みしめるようにほほえむ。

　なんとなくきまりが悪いような感じがして、視線をきょときょとと動かしたり、手持無沙汰に指を組んだりした。ドリーくんはしっかりと訓練された軍隊のように動かなかった。


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