【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

・ ページ14

.


「わたし、わたし最低だ！ さいあくで、さいてい、……ナツメ、ナツメに会いたい、やだ……ナツメが一番だったから、だからずっと頑張ってたのに。ナツメがいなきゃ、なんの意味もないのに、」
「ねえAさん、きいて。ねえ、」
「一人じゃ頑張れるわけないのに、私ずっと人のこと頼らなきゃ生きてけないのに。ナツメもヨウくんも、みんなおいてく、私だけ──私だけ、ずっとすすめてない」




「──おれを見て！！」




　人生で出したことないような大声が、発したおれでさえびっくりするようなそれに、Aさんの口が止まる。いつの間にかAさんの手首を、彼女よりもずっと強い力で握り締めていた。たった一言叫んだだけなのに、酸欠になったみたいに頭がくらくらする。肩が上下して、心臓の音が耳の真横で聞こえる。


「な、ナツメさんの話、じゃなくて。おれ、おれのこと見て、おれの話聞いてください」

「────」


　舌がもつれる。頭がパンクしてるっていうのは、自分でもわかる。ただ頭の中に溢れている言葉を、彼女に言わなくちゃ。


「おれの、おれの好きなひとのこと、そんなふうに言わないで」

「……は……？」


　ねえ、そんな顔をしないで。頼むから泣かないで。あなたが傷つくのが、おれ、一番痛い。あなたが零す涙が一番冷たい。指先も頭も何もかも凍りそうなのに、胸だけが溶岩のように燃え盛っている。


「す──好きです、おれ、Aさんが好きです。おれの、好きな人は、いつもまっすぐなあなたなんです」
「……な、んの、話？ だか、だから、それ、誰なの？」


　戸惑ったように、Aさんが後退りをする。だけどおれがずっと彼女の手を掴んでいるから、半歩くらいしか下がれない。


「私──そ、そんな人間じゃないって言ってるじゃん。らだおくんみたいになんでもできる人に尊敬されることないって、全然まっすぐなんかじゃないって、言ってるじゃん」
「Aさんにとっての自分はそうかもしれないけど、おれは、前にAさんがいたから頑張ってました。ナツメさんが道しるべだって、……おれのほうこそ、あなたがそうだった」


　言葉をなくしたように唇を震わすAさん。真っ赤に濡れていた瞳がきょろきょろとせわしなくあたりを見回して、本当に困惑しているようだった。そのまま、そのまま頷いてほしい。なにもわからなくていいから、おれのこの気持ちなんて、全然理解しないでいいから。


.

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す