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「ナツメが言ってたの。犯罪者を撃つのも心が痛いなぁ、って。わたし……じゃあ、私がやるよ、って。そう思った。ナツメがやらなくてもいいんだよって」
電気も点けていない部屋でも、Aさんの金髪は輝きを失っていなかった。だけど普段見るそれとは確実に変わってしまっていて、くすみかけたそれに心臓が痛い。
「わたし、わたしは、ナツメのことすごく大切だった。本当に好きだったの、本当にいまでも、ナツメがどんなことをしても、わたし本当に好きなの。恋とか愛とか、面倒くさい言葉なんてなにもいらない。ただすきなの」
ふと視界にキッチンが入る。二、三のコップと、二皿ほどの食器が重ねておかれている。──まさか、この三日間、口にしたのはあれだけ?
「で、でも、ナツメ、なつめはそんなことなかった。やめるなんて、他の人には言ってたのに、私には言ってくれなかった! ……さよならもいえなかった……」
おれだって。おれだってそうだ。
他の人は、多少なりとも悩んでいることとかを訊かれてたらしい──だけど、おれはただ、ヘリの技術を教わっただけだった。それでも、十分に空気感は伝わったけれど。わかったけれど、でも、さよならくらい言いたかった。
ありがとうございます、って。
あなたのおかげで──本当にあなたのおかげで、今まで警察を頑張れましたって。
「──わ、かり、ますよ。おれにだって、おれだって、全部わかるとはそりゃ言えないけど、でもその気持ちはちょっとくらいわかりますよ」
「わかんないよ。らだおくんには、私以外の誰もわかんないよ」
「なん、わかんない、て、なんすか? そんなふうに言われたら、おれ、なんもできないじゃないですか」
語気が荒くなる。話をしようと思うのに、Aさんがそれを拒否している。普段よりも弱々しい姿であるのに、そういう一度決めたのを譲らないところは同じだ。
「もういいよ。なんもしないでよ、もういいよ……」
「なんも、って。メシもちゃんと食えてないのに、それ気にしないっての無理でしょ。おれたちが心配だって言ってんのわかんないんすか?」
「知らないよ。心配してなんて言ってないでしょ。もういい、疲れた、なんもしたくない」
苛立ちで拳を握り締めた。掠れた声で力なく首を振るAさんに、言葉にできない不満が募る。
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時