21 『次に晴れたら、海岸で』 ページ11
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「Aさん」
「────」
「みんな、あなたに望むことは違っても、心配してることは変わらないんです。……ねえ、これを聞いても、まだそうしているつもりですか」
Aさんはベッドシーツにくるまって、リビングのラグの上に座り込んだまま、何も言わない。濡れて真っ赤になった目元が、溢れ出した涙で潤んだ瞳が、室内の室内の僅かな明かりを反射している。
──署長から頼まれたことだった。Aさんの様子を見てきてくれって。Aさんがもうどっちに転んでもいいから、とにかく、健康かってこと。おれたち警察に、何かしてほしいことがないかっていうこと。それを聞いてくれ、と。
ナツメさんに電話したら、ナツメさんは鍵を渡す以外の無駄な行動はしなかった。あなたが訪ねればいいのに、と言ったのに、首を振るばかりだった。「もうそれは、ぼくの役目じゃないんだ」とおれに告げた。
おれたちがそんなふうに、たった一人の警察署員を心配している間も、変わらず世界は回っている。大型犯罪の対応に命を賭して、強盗犯を捕まえようと駆けずり回って、結局退勤できたのは日も変わる頃だった。満月がぽっかりと空に浮かぶ。深更のロスサントスでは、日本よりも星空がよく見えた。
一度だけお邪魔したことがあるナツメさんの家は、まだ買ったばかりということもあって生活感がほとんどなかった。──リビングにただ佇むAさんを、一瞬彼女だと認識できなくなるほどに。
彼女と接しているのを比較的多く見たことがある署員からの話を、Aさんに伝えた。できる限りおれの主観を排して伝えたその言葉は、彼女にしっかりと伝わったと思う。いや、願望には過ぎないけど。
でもおれの期待とは裏腹に、Aさんは「ふ」と微笑をもらして、首を振った。
「そんな、すごい人間じゃ、ない。みんな、勘違いをしているだけ……」
「勘違いなんかじゃ、」
「だって。みんな、普通に警察をやってるでしょう?」
私みたいに、こんなグズグズになっていないでしょう、とAさんは続ける。おれはごくりと唾を飲みこんで、それに対する反論を頭の中で必死に考えた。犯罪者を相手にする時だって、こんなに頭を使うことはないってくらい。
Aさんは本当に子どもみたいだった。幼い子ども。自身の大切なものを知らないうちに奪い取られて、だだをこねている。
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白夜の世界(プロフ) - リアさん» コメントありがとうございます〜……!自分も書いてる最中に何度も泣いてます笑。自分が書いてるはずなんですが、私の中の彼らがめちゃくちゃ動き出してくれるんですよね……。えーんもう戻りたいですががんばります! (4月23日 22時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - ほんとに自分いい作品見つけたなって思います。読んでる途中泣くことも沢山ありました、それぐらい感情移入できる素晴らしい作品でした。これから1年間近く執筆されないということで、とても悲しいですが、リアルの方でもどうぞお元気で!いつでも帰ってきてくださいね (4月17日 2時) (レス) @page44 id: 8ac732f9cd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - うさみさん» コメントありがとうございます〜〜!出来事があって、それに対してみんながどう考えてどう行動していくかがstgrの醍醐味だと思っているので、それを表現できて嬉しいです……!!みんなに幸せになってほしい本当に……。 (4月7日 16時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
うさみ(プロフ) - とても…とても素敵なお話でした……!!!心の動きが綺麗で読んでる私の胸もギューっと締め付けられました(;;)語彙力天才すぎます…!もう、何処がというか全部!好きです……!!読み返してきます!!!♡ (3月27日 21時) (レス) @page50 id: 5394e48d78 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - きなこもちさん» コメントありがとうございます私も常々悩んでおります……。エまじで自分の感情に気づく前の🟦ヤバすぎませんか……。たぶん薄々気づいてたんだろうけど気づかないふりをしてたんだろうなと思うともう、胸が……ウウ……。 (3月25日 12時) (レス) id: 31a6bce1e5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2024年2月10日 14時