【stgr】潮鳴りのする雲を抜けて３【青井らだお】【完】

19　『ネバーランドはさようなら』 ページ1

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　ハクナツメが警察を辞めてから、三日が経った。──Aさんはまだ出勤してこない。
　警察の雰囲気は──良いとは言えないかもしれないけど、でもそれほど悪いわけでもない。一度千代田ヨウの件で耐性がついたからだろうか、気張っていこうとする警察の姿勢は悪くなかった。

　ナツメさんは餡ブレラに入った。

　おれはそんな──本当に、そんなに、ってレベルで、気にしてない。いや、正直自分がどれほどショックを受けているのかなんてわからないけど、業務に支障が出ていないくらいには気にしてない。寂しいし、どうして何も言ってくれなかったのかってのは、流石にあるけど。

　優しい人だ。すごく。
　警察をやるには、あまりにも優しすぎる。


『……ねえ、Aはどうしてる？』


　特殊刑事課へのクレームから一転して、ナツメさんは言った。すこしまえの電話の時だ。
　それをあなたが訊くのか、と思った。そうさせたことを確実にわかっているだろう、ナツメさんが。


『ずっと休んでます。おれたちの電話には出てくれないけど、署長とはいちおう連絡取ってるっぽくて、ナツメさんの家にいるらしいですけど』
『あー、まあ、合鍵渡してるから……。あー、そう。……そう……』


　普段はあんなにはっきりものを言うのに、ナツメさんは曖昧に返事をした。ゴネた犯罪者を相手にする時だって、なんとか落としどころを作ろうと頑張る姿を見たことがあるけれど、その時の姿勢は今のナツメさんには微塵も感じられなかった。
　沈黙する癖に電話を切らないのが腹立たしい。警察を裏切ったということより、Aさんを裏切ったことが腹立たしさの一つでもある。


『Aさんには、なにも言わなかったんすか？ 辞めることとか、犯罪者になること』
『いや、まあ……うん。だってA、ショックだろうし』

『──それをあなた以外から聞かせられるほうが、よっぽど傷つくとは思わなかったんですか』

『────』


　電話の向こうで息を呑むような音が聞こえた。滅多に感情の乗らない自分の声が、思っていたよりもずっと怒気を孕んでいてきまりが悪くなる。向こうもこんなにはっきりとおれが怒ると思わなかったのか、返す言葉を見つけるために黙っている。


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