許されてしまって、良いんだろうか。

09　『後日談』 ページ9

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「河合、別れよう」

「──え？」




　河合は引き攣った顔で、声を漏らす。それは予想外という感情に塗れていたが、全てを知っている俺から見れば、『どうしてわかったのか』という驚愕にしか見えなかった。

　どうしてわかったのか、というか、どうしてわからないと思ったのか、と此方が訊きたくなるレベルだ。お前、俺のことバカにし過ぎだろうが。


　まあ、入社してから結構すぐに付き合い始めたからな。俺も一応コイツと結婚すんのかなってぼんやりぐらいには思ってたし──まあ結局そうはならなかったんだけど──こんなに唐突にそんなことを言われたら、そりゃあ納得もいかないし、嫌だと思うだろう。

　納得させるつもりはさらさらないが。



「ま、待ってよ。何で？ どうして？ あたし東くんに嫌なことした？」

「うん。した」

「────」



　ねえ、と言いながら、俺は河合に近づく。黒髪ストレート、結構好きだったのになあ。たまにドジっちゃう処とか、……好きだったのにな。

　髪を一房手に取って。





「どうして、志津のことを会社にバラした？」





　けど、俺が許すと思うなよ。




＋ ＋




　一人から噂の発端を辿っていけば、必ずそれは最初の一人に行き着く。係長から聞いたとか、俺より上の役職から聞いたなんていう人もいたので少し手間取ったが、きちんと情報は確定できたので良しとしよう。

　一つは、経理部。もう一つは、二十五──俺と同い年。


　心当たりは、一人しかいなかった。



「俺と同期で、経理部のヤツで、同じ大学出身」

「──ち、ち、違うの」



　河合は普段の顔をくしゃくしゃにして、言った。あークソ。可愛いな。本当に好きだった。キスとか恋人が普通にするようなこと全部して、あぁ俺、コイツと結婚するんだって──そう思ってた。

　──何でバレないと思ったのか逆に訊きたいし、本当に、どうしてこんなことをしたのか訊きたい。それとできるなら、大学の時にこれを広めたのがお前なのかということも。


　こんなことされなかったら、普通に好きだったのになあ。


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