ne vivam si abis. ページ21
壁にもたれ掛かって、そこでオレは考えるのをやめた。
隣を見ると、いつものAがいる。
……出会った当初に比べれば、少し痩せたような気がする。
その柔らかな髪に手を伸ばせば、瞳もそれに呼応するようにパチリと瞬きされる。穢れを知らない、純粋無垢な丸い瞳。蝋人形のように白い肌に思わずそのまま手を頬に沿わせれば、血の通う生の暖かさが感じられてほっと安心した。
「……綺麗だ」
ぽつりと無意識に呟いた言葉に、彼女は照れるわけでもなく、いつかのように柔和に微笑んだ。
……その本心を傍ら理解しているから、尚更彼女のそんな反応が辛かった。
「ありがとう。……延命治療もなるべくしてこなかったからね」
副作用で辛いし、最終的にどうせ死ぬなら美しいままの死体がいい、と、Aはまるで物語を語るように言った。
「……オマエが死なない世界で出逢いたかった」
「私も、私が死なない世界で生きたかった」
「……死なないでくれ」
コツリ、とAの両頬に手を添えたまま、自分の額を彼女の額に合わせる。
顔を伏せて目を閉じると、本当に世界に取り残されたような感じがして、額と手に感じるAの熱だけが頼りだった。
「そんな暗いこと言わずにさ、これから楽しく生きれるようにしようよ」
「Aがいない人生なんて楽しくない」
「そんなことないでしょ？ ケンチンとエマちゃんの結婚式だって見れるし、みんなの子供の顔見れるんだよ。楽しいこと沢山じゃん、これから」
そこにオマエはいないんだぞ、と言おうとして、喉元でその言葉を飲み込んだ。というより、Aがそうさせなかった。その真っ直ぐとした、暗さを否定する瞳が、オレの瞳を貫いていたから。
「いつまでもメソメソしててどうすんの。それで東京卍會の総長なの？」
「……ごめん」
「謝らない。病気のことについて謝るなって最初に言ったのマイキーでしょ？」
「……うん」
「それに、悲しく死ぬより笑ってお別れできた方がいいってケンチンと二人で言ってくれたじゃん」
年下の弟をあやすみたいに、Aは言った。
彼女は自身の頬に触れているオレの手を、上から覆うようにして静かに引き離す。
「……万次郎なら、私が死んでも前を向いて生きれるでしょ？」
その声が、顔が、言葉が、全てが愛おしくて。
いつでも優しくて、強い彼女に心を惹かれた。
その感情が、歪んだものになったのはいつからだっただろう。
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ぱーぷる姫(プロフ) - 純粋に狂った愛でした。ボロボロ泣きました。本当にありがとうございました。 (2023年1月27日 7時) (
レス) id: be661beda4 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - めっちゃ良かった！涙が止まらなくて久々に号泣しちゃいました。素敵な作品を読めて嬉しかったです☆ (2022年3月8日 14時) (レス) @page49 id: e10675e39d (このIDを非表示/違反報告)
梅累(プロフ) - りゃんさん» ありがとうございます……！嬉しいです。読んで頂き感謝です！！ (2021年11月7日 20時) (レス) id: 62e7d56914 (このIDを非表示/違反報告)
りゃん(プロフ) - 素敵です…… (2021年11月7日 18時) (レス) @page50 id: 9dca799aaf (このIDを非表示/違反報告)
梅累(プロフ) - ミイさん» コメントありがとうございます。この作品が誰かの心に届いたと思うととても光栄です。まだまだ至らぬ部分もありますが、これからも応援よろしくお願いします。 (2021年9月2日 17時) (レス) id: 62e7d56914 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：梅累 | 作成日時：2021年8月31日 12時
